ASCO、がん臨床試験に対する適格基準の緩和を推奨

米国臨床腫瘍学会(ASCO)とフレンズ・オブ・キャンサーリサーチ(Friends)は、がん臨床試験に対し、より多くが参加できる適格基準の使用を求めている。この推奨は、本日Clinical Oncology(JCO)誌に掲載された’スペシャルシリーズ’の声明に基づくものである。ASCO-Friends共同研究声明である本シリーズでは、適格基準に含まれる特定の5分野(登録に必要とされる最低年齢、HIV/AIDS状態、脳転移、臓器機能障害、悪性腫瘍の既往または重複がん)における推奨とともに、がん臨床試験に対する適格基準の包括的な精査を提唱している。

「この共同声明は、がん臨床試験に対してより寛容な適格基準を安全に使用し、受け入れる文化を促進するためのロードマップを提供します」「もっと多くの患者が臨床試験に参加できるようにすることで、私たちは最終的に、毎日の医療現場でみられる多様な患者を治療するために既定の治療をどのように役立てるべきか、理解を深めることができるでしょう」ASCO会長、米国臨床腫瘍学会(ASCO)専門委員会議長のBruce E. Johnson医師は話した。

両団体によれば、適格基準は試験の参加集団を限定するだけでなく、試験参加者、特に臨床試験薬の有害事象に弱い可能性がある参加者の安全を守ることを意図している。しかしながら厳しく制限された適格基準は患者ががん臨床試験に参加することを妨げ、試験の結果を広く一般化する可能性を低下させて現実のがん患者の治療への適応を困難にする。

「歴史的にみると、臨床試験へのかかわりは比較的少数の患者に限られていました」Friends of Cancer Research会長兼CEO、Jeff Allen医師は述べた。「臨床試験の適格基準を緩和することで、もっと多くの人々が研究に参加する機会を提供できます。そうすれば研究へのかかわりが多くなるだけでなく、最終的に薬を使用する人々をより反映した試験結果を得ることができるでしょう」。

2016年、ASCOとFriendsが共同プロジェクトを開始したとき、『適格基準が患者の試験参加を制限してしまう可能性は最も高いが、参加者の安全に影響を及ぼす可能性は最も低い』という5分野を特定した。研究者、患者支持者、規制当局者、業界代表者からなるワーキンググループは、各分野を調査し、患者の参加を制限することが多い選択基準および除外基準を緩和することを推奨した。ASCO and Friendsはこの重要な問題に取り組むために、プロジェクトの間、米国食品医薬品局(FDA)とも密接に連携した。

ワーキンググループは、広く、過去に特定の患者群を除外する一因となった懸念事項は、実はデータによる裏付けが、ほとんどなされていないことがわかった。さらに、通常広範な予備試験が完了するまで、つまり薬剤が承認されるまで彼らを対象に薬剤を試験しないので、明確に定義せず任意に彼らを除外することは新しいがん治療薬へのアクセスを制限し、したがってがん治療の新しい進歩からメリットを得る力を制限してしまうことになる。そのうえ臨床現場で治療する場合、これらの特定の患者集団(すなわち特定のがん種で大部分を占める可能性がある患者)に対して、薬剤の安全性および有効性に関する利用可能なデータが限られていることが多い。

’スペシャルシリーズ’には、2015年からのFDAの臨床試験用新薬申請(IND)分析も含まれている。この分析はFDA腫瘍学中核的研究拠点センター(Oncology Center of Excellence)長、Richard Pazdur医師およびFDA職員により作成されたもので、今日の通常の適格基準の結果除外されている患者集団と、一方で基準を緩和することにより臨床試験にさらに多くの患者が参加できる機会がないかを探る手がかりを提供している。

このような努力を重ね、ASCOとFriendsは6月30日にミーティングを開き、19の医薬品製造企業やバイオテクノロジー企業、FDA, 米国国立がん研究所(NCI)協議会, NCIの研究団体の関係者らと適格基準の緩和実施について議論した。これらの団体は、勧告を実行し、腫瘍学に関する臨床試験の適格基準を安全に緩和する機会を確認するために、臨床試験のスポンサーおよび規制当局と連携を続ける予定である。

 Journal of Clinical Oncology誌参照: JCO Special Series

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各推奨の詳細

◆ 登録の最低年齢

【背景】18歳未満のがん患者は従来成人の臨床試験から除外されている。ときにはがん患児対象の新しい治療法が、成人対象に承認された後、初めて適応外使用できるようになる場合があるが、小児の使用に特有の用量、安全性、有効性などの情報は入手できていない可能性がある。

【推奨】
・患児には成人と子供の両方にわたるタイプのがんの後期試験を考慮すべきである。薬物代謝が成人に似ているので、12歳以上の青年は、常にこれらの試験に選択するべきである。より幼い患児を選択することは、がん特有の生物学的特性、薬物の作用、利用可能な安全性についての情報に基づき、彼らが疾患に罹患した集団の一部であれば適切であろう。

・患児は、小児の参加者のリスクを軽減するために利用できる有益で十分な情報が得られると期待する科学的根拠がある場合、用量、安全性、薬物動態を評価する初期試験に含まれるべきである。

「登録の最低年齢」ワーキンググループによる論文の全文を読むこと。

◆ HIV

【背景】ここ数十年にわたるHIV治療の進歩により、HIV感染者の多くは正常な平均余命が得られている。 がんは現在、HIV患者死亡の主な原因であるが、腫瘍学の研究では通常、HIV患者が参加することを除外している。

【推奨】
・AIDSに関連した転帰のリスクが低く、十分に健康とみられるHIV患者は、著者が概略を示した基準に定義したとおり、すべての試験段階の試験に含めるべきである。特にがんはHIVに関与することが多く、除外の明確な根拠がなければ選択すべきである。

・試験に登録された場合、HIV患者は、同じ標準的な治療法に準じて治療され、他の共存症を有する患者と同じケアを受けるべきである。

・HIV患者は、がんの臨床試験中、標準的な抗レトロウイルス療法による治療が許可されるべきである。

「HIV」ワーキンググループによる論文の全文を参照のこと。

◆ 脳転移

【背景】脳転移を有する患者、脳転移が安定または治療されていても、臨床試験から除外されることが多い。 これらの患者がメラノーマ、乳がん、肺がんなどの脳転移の発生率が高いタイプのがん対象の臨床試験への参加から除外されることが多いのは、彼らが開発中の医薬品による治療を受ける患者の大半を占める可能性があるからである。

【推奨】
・脳転移を有する患者は、通常初期の薬物試験に選択されるべきである。脳転移は薬物を使用する予定の患者の初期に多く認められるためである。

・安全性に特定の懸念あるいは除外の根拠がない限り、研究に入る4週間前に脳腫瘍が治療および/または安定している場合、患者を試験の全段階の対象とするべきである。

・活動的な脳転移を有する患者に対し推奨されるアプローチは1つだけではないが、これらの患者は試験参加から自動的に除外されるべきではない。 著者らは、疾患の特徴、試験デザイン、試験薬の特徴を基に、これらの患者の選択の妥当性を判断する際に考慮するべき提案や実例など、決定の枠組みを提供している。

脳転移ワーキンググループによる全文を参照のこと。

◆ 臓器機能障害

【背景】今日の老齢人口では、腎疾患、肝機能障害または心臓病を含む共存疾患に罹患する癌患者の数が増えている。 しかし、臨床試験では、薬物代謝あるいはクリアランスの詳しい機能にかかわらず、臓器機能障害の患者を除外することが多い。

【推奨】
・腎疾患:腎毒性が試験の治療法に関わる直接的な懸念事項ではなく、その薬物が腎臓により排泄されない場合は、患者の選択を決定するために、クレアチニンクリアランスの自由基準を使用すべきである。

・肝機能障害:肝機能は今日利用可能な検査では適切に測定されていないが、代替の測定法はなく、標準的な臨床評価を採用する必要がある。

・心疾患:試験薬が心臓のリスクに関連していない場合、無作為な駆出率の値に基づく試験から除外してはならない。

◆ 悪性腫瘍の既往あるいは重複がん

【背景】今日の人口高齢化の中では、がんの既往歴または2種のがん併発の診断を有するがん患者数が増加している。 臨床試験では、他のがんが、治療を受けている癌に対する試験薬の安全性または有効性の分析に影響する可能性が低くても、がんの既往あるいは併発の歴を持つ患者の参加を除外または制限することが多い。

【推奨】
・特に、以前の悪性腫瘍が安全性または有効性エンドポイントのいずれかを妨げる危険性が非常に低い場合、悪性腫瘍の既往歴を有する患者を選択することが推奨される。 自然経過または治療が試験投薬計画の安全性または有効性評価を妨げる可能性のない悪性腫瘍の既往あるいは併発の歴を有する患者を選択するべきである。

臓器機能障害および悪性腫瘍の既往あるいは併発のワーキンググループによる全文を参照のこと。

翻訳担当者 白鳥 理枝

監修 原 文堅 (乳腺科/四国がんセンター)

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原文掲載日 

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