がん治療の大きな進歩 – 単なる希望ではない現実

Douglas R. Lowy医師

米国で4人に1人の死亡ががんに起因している状況において、この恐ろしい疾患に対する進歩は重要なニュースである。最近発表された1975〜2014年のがんの状況に関する年次報告書(The Annual Report to the Nation on the Status of Cancer)を読むと非常に勇気づけられる内容であった。

NCI、米国疾病対策予防センター(CDC)、アメリカがん協会、北米中央がん登録室協議会 (The North American Association of Central Cancer Registries) が共同で発表した報告書によれば、ほとんどの部位のがんで男性、女性および小児の死亡率は低下しつづけている。現在のがんの発生率、死亡率、および生存率の推移に関する素晴らしい展望について書かれた、このレポートを読むことをお勧めする。

がんに対する進歩の肯定的な記述のおかげで、私は別の角度から私たちの進歩を見ることができた。

CDCが報告した死亡率(2015年、最も直近の数字)は、がんによる死亡が減少していることをさらに裏付けるものである。過去5年間、米国の全死亡者の約75%が、心臓病、がん、肺疾患を代表とするトップ10の死因によるものであった。がん以外の9つの主要な死因のうち8つについては、死亡率が増加しており、9番目(注釈:インフルエンザと肺炎)の死因については変化がなかった。2015年において、唯一がんは死亡率が1.7%低下した。

全ての時間をがん細胞の生物学や腫瘍の増大と進行をより理解することに捧げてきた私にとって、このことは非常にエキサイティングなニュースである。

研究への持続的投資

この進歩は何に起因するものなのか。がん予防が主な理由のひとつであり、これは長期的に多くの命を救うことができ、治療よりずっと重要である。

NCIは何十年にもわたって予防、がん検診、早期発見の改善のための研究に多大な投資を行ってきており、効果的な予防戦略の導入を増やすことで、がんと診断され、肉体的、財政的、社会的、心理的に苦しむ人が少なくなるはずである。

たばこ対策の取り組みは、その多くはNCIが支援する研究に基づくものであり、過去数十年で確かに喫煙率及び肺がんの罹患率の低下させた。さらに、大腸がん、子宮頸がんおよび乳がん検診の増加は、死亡率を改善するのに役立っている。

NCIの何十年もの長期にわたる生物学的基礎研究への投資は、私たちが現在見ている継続的な進歩のもう一つの重要な要素であることは確かである。がんの複雑さに対する深い理解が、今日広範囲のがんに適用されている新しい治療法の開発につながっている。

例えば、私たちは現在がんの治療法として、免疫チェックポイント阻害剤として知られる免疫療法薬を取り入れた。これらの薬剤は、免疫系に対する「ブレーキをはずす」ことによって作用し、免疫細胞がより効果的にがん細胞を殺すことを可能にする。

ごく最近、チェックポイント阻害剤であるアベルマブ(Bavencio)は、これまで有効な治療法がなかった希少かつ進行が速い皮膚がんであるメルケル細胞がんに対して、最初のFDA認可の治療薬となった。 NCIのがん研究センター(Center for Cancer Research)の仲間がこの承認につながった早期の臨床試験で重要な役割を担ったことは注目に値する。私たちは皆誇りに思っている。

小児がん

がんを発症する若年者の予後は大幅に改善されてきた。 50年前、小児がんは事実上治癒できなかった。今日、治療の進歩により、がんと診断された大部分の小児は治癒可能である。これにより、若年がん生存者の数が増加し、米国では20歳未満のがん生存者が約10万人となった。

それにもかかわらず、はるかに多くの小児が依然としてがんに侵され、またがんで死亡している。がんで死亡する子供は一人たりともあってはならない。いくつかのタイプの小児がんに対してはかなりの進歩がみられているが、いまだ生存率が低く、進歩が不十分である小児がんもある。 NCIは、小児がんに対する進歩を加速し、その疾患に罹患した小児の数を減らすための効果的な治療法をみつけ出すことに取り組んでいる。

例えば、NCIは、小児の白血病およびリンパ腫に対するCART細胞療法の開発をリードしてきている。また、成人進行がんに対して分子標的療法を評価するNCI-MATCH試験と同様の小児向けMATCH試験(Pediatric MATCH)の実施が今年の後半に予定されており、非常に期待している。

不均衡の複雑さ

年次報告書を読んで、過去数十年にわたり主な人種・民族全てにおいて死亡率が減少していることを嬉しく思っている。しかし、特定の人種・民族では、肝臓がん、腎臓がん、多発性骨髄腫を含むいくつかのがんにおいて、一般集団より高い発生率と死亡率を有している。

生存率は地理的地域によっても異なり、特に僻地のがん患者は、転帰が悪くなる傾向がある。これらの格差の多くは、がん検診の実施とがんケアの質の違いに起因する可能性があるが、遺伝学と生活習慣の間の複雑な相互作用が転帰にどのように影響するかをより深く理解する必要がある。

私たちの研究は、がんの格差の原因となる生物学的および非生物学的要因の両方の影響を減らす革新的な方法を引き続き探求している。社会として、私たちは、がんの研究と治療方法が国中に広く届けられることを確実にしなければならず、富者も貧者も、都市も僻地も、そしてあらゆる人種・民族の全ての人々のニーズを満たさなければならない。

生存率とサバイバーシップ

死亡率の推移は、がんに対する進歩を評価するために最もよく使用される統計であるが、生存率の推移も重要な尺度である。この四半世紀に、米国におけるがん生存者の数は、700万人から1500万人の2倍以上になった。がんと診断された3分の2は、診断後5年以上生存する。

がん死亡率の低下によって高められた全生存率の上昇は、進歩の確実な尺度であり、非常に勇気づけられるニュースである。

しかし、サバイバーの生活の質にも注意を払う必要がある。これは小児がんのサバイバーに最も顕著な事柄である。

若年のがんサバイバーは、成人サバイバーより平均してはるかに長く生存する。これは、若年がんサバイバーが、二次がん増加のリスクなど、がんの重篤で長期的および遅発性の作用に長年対処しなければならないことを意味する。私たちの目標は、より効果的で毒性の低い治療法を見つけることであり、可能な範囲で、がん治療を受けた後、がんにかかっていない人々と同じくらいの生活の質を期待できるようにすることである。

St. Jude Children’s Research Hospitalにより実施されている長期追跡調査研究(the Long-Term Follow-Up study)は、NCIがこの分野で資金提供している重要な研究の一例である。

先月、St. Jude(小児がん患者を専門とするNCIが指定した総合がんセンター)へ訪問中に、この大規模な長期試験に関して、詳細な内容まで直接話を聞く機会を得た。この試験は約24,000人の小児がんのサバイバーおよびその家族を追跡調査していて、小児がんの治療の長期的な健康への影響についてより深く学ぶ手助けをしている。

この種の研究結果は、サバイバーがより健康的な生活を送るために放射線の線量を減らすなど、治療手順の変更を推奨できるようになる可能性をもつ。

今後の展望

がんに対する進歩は大きなニュースであり、元気づけられる。しかし、私たちは、がんがまだ多くの命を奪っていることを知っている。さらに、がんの予防、診断、治療においてわれわれがとげてきた大きな進歩は、この病気のすべてに当てはまるものではなく、肝臓、膵臓、脳、子宮などの一部のがんの死亡率は依然として増加している。

昨今の数々の科学的発見をもとに、私たちの確固たる献身と、進歩を加速させるこの勢いを結集して、より速く死亡率の低下をもたらし、すべての患者とその家族の生活を改善できると私は強く信じている。

翻訳担当者 西原 晋

監修 小宮武文(腫瘍内科/カンザス大学医療センター)

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