患者の治験薬アクセスに関し、ASCOが声明を発表

ASCOは、FDAのexpanded access program(EAP)、(*「人道的見地からの医薬品供給」)の強化を支持する。他方で、「患者が治験薬を試みる権利」法(Right-to-Try Measures)は有効策ではなく、患者に有害な可能性があるとして反対する。

米国臨床腫瘍学会(ASCO)は、がん患者の新治療へのアクセス強化を強く支持する一方、最近の米国連邦議会での「right-to-try(患者が治験薬を試みる権利)」法(以下、RTT法)案、および州の定めるRTT法について重大な懸念を提起している。ASCOが本日発表した声明文で、これらの措置は十分な患者保護を欠いており、また治験以外での治験薬へのアクセスの際に患者が直面する主な障壁を取り除くものではないと述べた。

リチャード・L・シルスキー医師(FASCO、FACP)は、「ASCOは適切な患者保護が行われている場合に、治験以外での治験薬へのアクセスを支持する。しかし、これらのRTT法は実際には、臨床試験以外での患者の治験薬へのアクセス方法を改善せず、最重要である患者の保護を無視していることから、ASCOは同法の成立を支持しない」。

ASCOの意見表明である「治験薬へのアクセスに関する米国臨床腫瘍学会(ASCO)の声明文」で次のように述べている。ほとんどのRTT法は、「善意ではあるが、終末期の患者に対する治験薬へのアクセス改善のための効果的な仕組みではないばかりか、 次の理由から予測しない弊害が起こる可能性がある。

治験薬の安全性と有効性の独立審査は、患者の安全にとって重要である。RTT法ではその審査の過程を省略する。一方、米国食品医薬品局(FDA)が提供する現行のexpanded accessプログラムでは、FDAは利用可能なデータを迅速に審査し、患者のために提案された治療のリスクと潜在的利益を独立して評価する。

RTT法の場合、医薬品製造者に治験薬の提供を要求または強制するものではなく、アクセス手段を提供する仕組みの強化を意味しない。これらの法は、しばしばアクセスの障壁を排除することはない。

また、RTT法では、特にこれらの治験薬によって合併症が起きた場合、保険会社は治験治療に関連する通常診療費を支払う法的義務がない。患者のための補償要件が存在する臨床試験とは異なるのである。したがって、RTT法は患者に対して新たな権利や保護を確立するものではない。

患者保護の欠如に加えて、RTT法では治験薬へのアクセスを求める過程で問題となる遅延を緩和することもできない。例えば、RTT法とexpanded accessではともに申請者はその製造業者に治験薬提供の意思を確認しなければならないが、医師および患者双方とも一貫して、そうした依頼の連絡先情報を見つけることの困難さ、および製薬会社からの応答や使用不可の回答が非常に遅いことを報告している。

FDAは、終末期の個々の患者についてはケースバイケースで対応し、治験以外で治験薬にアクセスできるexpanded accessと呼ばれる制度を提供している。 FDAは近年、同プログラムへの申請プロセスを合理化し、昨年には依頼の約99.5%を承認した。非緊急事態の場合にかかった承認時間中央値は4日であった。にもかかわらず、33の州では、患者がFDAの審査を要することなく、医薬品製造企業から治験薬へのアクセス要求を可能にするRTT法を通過させるに至った。事実、米連邦議会で最近提案された法案では、終末期の患者がRTT法が適用される州に住んでいた場合、FDAは未承認薬へのアクセス制限の発令を禁じられるというのである。

治験薬へのアクセス向上:次のステップ

ASCOは、21st Century Cures Act(21世紀治癒法)にも言及されている多くのexpanded accessプログラムのための既存の制度がさらに改善されることを支持する。expanded accessポリシーおよびそのプロセスに関する情報の作成を製薬企業に義務付け、患者や医師が容易に利用できるようにすることは、治験薬へのアクセスを簡素化するのに役立つだろう。

Schilsky氏は次のように述べる。「現在のexpanded accessプログラムが患者と医師にとって迅速で効率的な制度であることを担保し、かつ新政策イニシアチブをもって、製薬会社のexpanded accessポリシーの透明性の向上に重点を置くべきである」。

expanded accessプログラムのプロセスの遅れへの対応として、ASCOは、患者から治験薬製造企業への依頼申請を助けるナビゲーションサービスの開発を支援している。治験薬の使用を求める患者および医師が医薬品製造企業から治験薬のアクセス承認を得るための段階的プロセスの一元化に向け、オンラインポータル/ツールで普遍的な窓口を設けることが望ましいと考えるからである。

ASCOは、すべてのステークホルダーに協力を促し、FDA監視下のexpanded accessプログラムの支援およびこれらの機能の最適化を推進する。

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翻訳担当者 野中希

監修 小宮武文 (腫瘍内科/カンザス大学医療センター)

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