がんにより経済困難に陥る可能性が研究で裏付けられる

米国国立がん研究所(NCI)/ブログ~がん研究の動向~

原文掲載日 :2015年12月23日

がんサバイバーの調査から、多くの人が借金、破産申請、家計の問題で不安が続いていることなど、がんとその治療により経済困難に直面したことがあるという報告を行っていることがわかった。

この調査研究の結果は、Journal of Clinical Oncology誌11月7日号に掲載されている。

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写真解説
新たな研究では、がんの治療費について患者と主治医が話し合うことの重要性を強調している。出典: iStock
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「がんサバイバー、特に生産年齢の方々で、こうした物質的、精神的な経済困難に直面した方が多いことが私たちの研究からわかりました」と、調査主任のRobin Yabroff博士(元NCIがん制御・人口学部門(Division of Cancer Control and Population Sciences: DCCPS)所属、現米国保健福祉省医政室(the Department of Health and Human Services Office of Health Policy)所属)は語った。

研究では、Yabroff博士の研究班は、2011年のMedical Expenditure Panel Survey (MEPS) Experiences with Cancer Survey(がん患者を対象にした医療費パネル調査におけるアンケート調査)で得た約1200人の成人がんサバイバーの回答を分析した。MEPSとは医療機関の受診と医療費について患者に直接聞き取りを行う全国的な標本調査を意味するが、これは米国医療研究品質局(AHRQ)が実施している。NCIをはじめとするいくつかの連邦機関は、がんや医療機関への受診による家計への負担など、がんサバイバーが抱える問題に関する追加調査を行うための資金を一部提供している。

がんサバイバー全体の約20パーセントは、借金をせざるを得ない状況や負債を余儀なくされた状況、また医療費を払えない状況など、物質的な経済困難に陥った状況を報告していたことが、本研究者により明らかになった。

経済困難は65歳以上よりも18~64歳の報告率が高かった。また、女性や人種的・民族的少数派、またごく最近に治療を受けた人でさらに報告率が高かった。

回答者の中で離職を延長せざるを得なかった人や診断後に非常勤に切り替わった人は、雇用状態が変化しなかった人や診断時に非雇用状態だった人と比べて経済困難の報告率が2倍を超えていた。

精神的な経済困難の報告率は18~64歳が65歳以上と比べて報告率が2倍を超えていた。家計の問題に関する懸念は保険未加入者がもっとも多く、半数近い人がそうした懸念を抱いていた。

研究班は、対象集団が小さいこと、またMEPSのような集団ベースの家庭調査では、初期診断よりずっと後になって研究に参加した人が多い一方で、がんと診断されてすぐの人や稀ながんの人が少ない、といったように何らかの形で選ばれた集団になってしまうことなど、研究にはいくつか制限が存在することを述べている。

「がん治療、特に経口治療で費用が上昇し続けているため、経済困難に陥りやすいがんサバイバーの背景を特定する必要性が重要になるのです」とYabroff博士は語った

これは特に重要な問題であり、それは経済困難に陥った患者や自己負担額が高額になる患者は「治療の延期や中断する傾向が高く、またがん治療の遵守が得られにくくなる」ことが多くの研究より考えられるからである、と博士は続けた。

がん治療を受けている患者が説明にもとづく意思決定を行うための重要な要素は主治医と話し合うことだ、と博士は語った。そして、しかしながら医師は依然として家計的な問題についてあまり患者と話したがらない、と続けた。

「そのため、がん治療の費用と支払い能力に関して医師患者間の話し合いをより詳細に行うよう努力することは、特に医療機関の利用しやすさを変える点で重要になるのです」と博士は話を終えた。

原文
 

翻訳担当者 渋谷 武道 

監修 東 光久(総合診療、腫瘍内科、緩和ケア/福島県立医科大学白河総合診療アカデミー) 

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