OncoLog 2015年4月号◆House Call「医療ニュースの読み解き方」

MDアンダーソン OncoLog 2015年4月号(Volume 60 / Number 4)

 Oncologとは、米国MDアンダーソンがんセンターが発行する最新の癌研究とケアについてのオンラインおよび紙媒体の月刊情報誌です。最新号URL

House Call:医療ニュースの解釈

ニュース番組では、不確かな怪しい医療情報を伝えることがよくあります。ここでは、医療関連のニュースに対して大きな誤解をしないよう注意すべき点と、逆に注目すべきニュースの特徴について紹介します。

説得力の弱い医学的根拠を利用する

ニュース番組で「研究では・・・」と言うと、「どんな研究?」と疑問に思うはずです。研究には医療現場に変化を与えるだけの医学的根拠を示す研究もありますが、皆さんの健康について合理的な判断の根拠とするには不十分な研究もあるのです。次のような問題を見てみましょう。

実証研究でなく観察研究を引用する
ニュース記事では、研究者がさまざまな種類の人に関する情報を収集し規則性を探し出す、観察研究をしばしば取り上げます。観察研究では2つの要因に関する統計的関連性を示すことができますが、他の重要な要因を常に考慮しているとは限らないのです。例えば、教育期間と寿命の長さとの関連性を示す研究があったとすると、収入が両因子に与える影響を考慮していないこともあります。こうした研究の結果はさらなる研究の必要性を示すことはできますが、ある要因が別の要因の原因であることを証明することはできません。

一方、実証研究では参加者を募集し、一部の人に治療介入(投薬や手術などから、食習慣の変更といったことまでの、あらゆる介入)を行い、その介入が特定の結果にどう影響を与えたかを調べます。

ランダム化対照臨床試験を引用したニュースは、特に注目しましょう。これらの研究では、同じような背景を有した参加希望患者を、試験段階の治療を受けるグループと、現在の標準治療を受けるグループ、もしくは標準治療が存在しない場合はプラセボのグループに、無作為に振り分け比較します。実証研究による最も説得力のある根拠は、複数の臨床試験の結果を統合して結論を導く手法である、システマティックレビューとメタアナリシスから得られます。

臨床試験ではなく非臨床試験の引用
新薬の研究は、患者で行う前に、まず体外の細胞で行い、その後マウスなど動物を対象に行います。これらの研究は予備段階のものであるため、結果を直接患者に当てはめることはできません。実験室レベルの研究で新薬ががん細胞を死滅させたと聞くと興味がわくものですが、新薬が体内で同じ効果を示すことを証明するには、さらに長い期間の研究が必要なのです。実験室レベルの研究や動物実験で有効だとされた医薬品の多くは、最終的には患者に効果がないことを覚えておいて下さい。

逸話の引用
ある患者や医師の体験談、さらには一握りの患者や一握りの医師の体験談は、医学的根拠を決定する裏付けにはなりません。

利点を誇張し、害の可能性を矮小化する

医療関連のニュースでは、治療介入が結果にどの程度影響を与えるかを報告するとき、具体的なデータを得る必要があります。たとえばヨガをすれば痩せるという話が出たら、減った体重と必要なヨガの時間を聞いてみましょう。効果は微々たるものでしょう。「あと4回」とか「3回少なく」などという相対的な指標では、本当に効果を与える量がわからないことが多いのです。コーヒーがある特定のがんのリスクを「半分にする」と聞いたとき、そのリスクがどの段階から半分になるのか調べましょう。もし元のリスクが、たとえば生涯で0.5%とか非常に小さい場合、そのリスクが半分になったところで、大きな違いはありません。

また、治療介入で受ける可能性のある副作用とその確率、そして重症度について常に言及されるべきです。ですが、一部のニュースではこれらに関する議論は省略されています。治療介入による副作用が不明であれば、その不確実性をそのまま知らせるべきなのです。

既存の選択肢を無視する

新薬や新しい術式が、同じことを目的にして現在行われている治療法より良いものとは限りません。治療介入を紹介するニュースでは、その治療法と現在の標準的な治療法とを比較すべきです。単純に新しい治療介入を受けないという選択肢も考慮されるべきです。たとえば、新しい術式で手術を受ける状況になったとしても、かえって厳重な監視体制で管理されることもあるのです。

利便性やコストを無視する

たいていのニュースでは、新しい治療介入の利用しやすさについては言及しません。政府の承認が必要な臨床試験が完了していない新しい治療法や試験は、その試験に選ばれた患者だけが受けられるのです。そうした試験は完了までに何カ月、何年という時間がかかり、実施されるのはごく一部の病院のみです。また、複雑な術式は広まるまでに時間がかかり、専門的な訓練を行った医師からしか受けられません。

さらに、一般市場に出回った治療介入は利用しやすくなるかもしれませんが、金銭的に手が届かないかもしれません。保険契約が新しい治療法や臨床試験を保障しないかもしれませんし、自己負担額が法外な金額になることもあるのです。

信頼できる医療情報源

本記事で取り上げた起きやすい誤解と、信頼性のある医療記事の特徴については、www.healthnewsreview.org に掲載しています。臨床的有効性の研究について分かりやすく書かれた要約は PubMed Health で検索できます。また、かかりつけの医師も信頼できる医療情報源です。ニュースをもとに医療的な判断を行う前に医師に相談しましょう。

The information from OncoLog is provided for educational purposes only. While great care has been taken to ensure the accuracy of the information provided in OncoLog, The University of Texas MD Anderson Cancer Center and its employees cannot be held responsible for errors or any consequences arising from the use of this information. All medical information should be reviewed with a health-care provider. In addition, translation of this article into Japanese has been independently performed by the Japan Association of Medical Translation for Cancer and MD Anderson and its employees cannot be held responsible for any errors in translation.
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翻訳担当者 渋谷武道

監修 大野 智(腫瘍免疫学、免疫療法、補完代替医療/帝京大学、東京女子医科大学)

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