MDアンダーソン研究ハイライト:ASTRO2023特集
MDアンダーソンがんセンター
特集:新しい併用療法や分析法に関する研究
テキサス大学MDアンダーソンがんセンターの研究ハイライトでは、がんの治療、研究、予防における最新の画期的な発見を紹介している。これらの進歩は、世界をリードするMDアンダーソンの臨床医と科学者による、垣根を超えた継ぎ目のない連携によって可能となり、研究室から臨床へ、そしてまた研究へと発見がもたらされる。
今回は米国放射線腫瘍学会(ASTRO)2023年次総会におけるMDアンダーソン研究者の発表を特集する。ASTRO年次総会におけるMDアンダーソン関連の情報はすべて、MDAnderson.org/ASTROに掲載する。
HPVの循環遊離DNAの動態を評価することにより、子宮頸がんに関して有益な知見が得られる可能性(アブストラクト107)
ヒトパピローマウイルス(HPV)は子宮頸がんの主要な原因であり、ウイルス性のHPVDNAは子宮頸がん患者の血液中に検出される。Aaron Seo医学博士発表による新しい研究でこの循環DNAの動態を分析したところ、重要な知見が得られた。この研究では、ウイルス性のHPVDNAのレベルが化学放射線療法の経過とともに動的に変化すること、および治療用HPVワクチンによる治療が循環DNAの急速な減少と関連することが明らかになった。これらの知見は有望であり、HPVの細胞遊離DNAの動態が、疾患の程度、臨床病期および治療効果にどのような影響を与えるかを解明するために追加研究が必要である。本研究結果は10月1日に発表される。
放射線療法が少数転移前立腺がん患者の免疫系を活性化させる可能性(アブストラクト157)
EXTEND試験において、放射線療法とホルモン療法を併用した転移指向性治療は、ホルモン療法単独と比較して無増悪生存期間を改善した。しかし、そのメカニズムや治療効果を予測するバイオマーカーについてはよく分かっていない。Alexander Sherry医師発表の新しい研究では、試験参加者の免疫系を調査し、放射線療法とホルモン療法を併用すれば、ホルモン療法単独よりも強い免疫反応を引き出すことを明らかにした。さらに、放射線療法を受けた患者のうち、免疫反応の強い患者においてより良好な治療成績が得られた。この研究により、転移指向性の放射線治療、全身免疫反応、および全体的な病勢コントロールの間に関連がある可能性が示唆された。この結果は、免疫療法と放射線療法+ホルモン療法とを組み合わせた新たな研究や、患者の免疫系に基づいた個別化治療への道を開くものである。Sherry医師は10月2日に研究結果を発表する。
ブリッジング放射線治療中のリンパ球減少は、悪性度の高いB細胞リンパ腫の予後不良とは関連しない(アブストラクト195)
ブリッジング放射線療法は、再発または難治性のアグレッシブB細胞性リンパ腫において、抗CD19キメラ抗原受容体(CAR)T細胞療法で治療する前の病勢コントロール戦略として用いられてきた。しかし、治療に関連するリンパ球減少症(複数種のがんで予後不良との関連が報告されている、白血球が減少した状態)が懸念されてきた。Gohar Manzar医学博士発表による参加者40人の後ろ向き研究では、このタイプのB細胞性リンパ腫において、ブリッジング放射線療法に起因するリンパ球減少が治療効果や生存転帰の悪化とは関連しないことを明らかにした。本結果は、この状況下でブリッジング放射線療法を治療選択肢として考慮することを支持するものである。Manzar氏は研究結果を10月2日に発表する。
膵臓がんの治療効果測定に可能性を示す新しいMRI技術(アブストラクト224)
イントラボクセル・インコヒーレント・モーション(IVIM)磁気共鳴画像法(MRI)は、造影剤を使用せずに組織の特性を測定する新しい画像技術であるが、IVIMにより測定可能な組織特性と腫瘍の放射線に対する反応性とを関連付けるには、継続的な研究が必要である。膵臓がん患者12人を対象としたLucas McCullum氏発表の研究では、IVIMスキャンは、奏効と相関する膵臓腫瘍マーカーCA19-9の変化により階層化した患者間で、明白な差異を示した。研究者らは、今回の結果から、IVIMが治療効果の判別を担うにはさらなる研究が必要であるとしている。McCullum氏は研究結果を10月3日に発表する。
新しいPET/CTソフトウェアが肺がんの放射線治療計画を簡略化し改善する可能性(アブストラクト270)
現在、非小細胞肺がんに対する放射線治療計画では、同期4次元コンピュータ断層撮影(CT)スキャンと非同期陽電子放射断層撮影(PET)/CTスキャンの2回の撮像が必要である。2回分のデータは放射線治療のシミュレーションに使用されるが、それぞれのデータをひとつにまとめなければならず、治療効果を評価し治療計画を立てるのに効率が悪い。Tinsu Pan博士が発表する新しいプロトタイプソフトウェアでは、15分以内の1回の撮像で同じ情報を収集することが可能となる。この撮像には、位置ずれやモーションアーチファクトが起こらないし、ハードウェアを同期させる必要もなく外付けの呼吸モニタリング装置も不要である。このアプローチにより、患者の負担が軽減するだけでなく、臨床医の放射線治療計画評価も向上する可能性がある。Pan博士はこの研究結果を10月4日に発表する。
CD47を標的とする新しい抗体毒素結合体が乳がんモデルに対する免疫応答を改善(アブストラクト304)
マクロファージは、貪食と呼ばれるプロセスを通じて悪性細胞を飲み込み、無力化する。しかし、腫瘍細胞は「私を食べないで」というシグナルであるCD47の発現を増加させて貪食を回避することができる。CD47を遮断すると、細胞質DNAに対する免疫応答を惹起するSTING経路によって抗腫瘍効果がもたらされる。しかし、細胞質DNAは貪食の過程で破壊されるため、CD47遮断の効果は限定的である。Wen Jiang研究室で開発された新しい抗体毒素結合体は、抗CD47とリステリオリシンO(LLO)とを結合させることにより、この問題を克服した。LLOは膜孔形成タンパク質であり、腫瘍DNAをファゴリソソームから逃がしてSTINGを活性化する。LLO-CD47は、がん免疫療法のために開発されたファーストインクラス*1の抗体毒素結合体である。Benjamin Schrank医学博士発表の前臨床解析では、LLO-CD47はマクロファージのSTINGシグナル伝達と腫瘍細胞貪食作用を増強し、乳がんの増殖と転移を阻止した。本結果は、この新規免疫療法を転移乳がんの治療選択肢とするのにさらなる評価が必要であることを示している。Schrank博士はこの結果を10月4日に発表する。
*1:その領域で新規性や有用性が高いとされる画期的な医薬品
新たなアプローチにより、肝指向性切除放射線療法の対象患者が拡大する可能性(アブストラクト309)
切除放射線療法は、腫瘍に高線量の放射線を照射する一方で、周囲の健康な組織の被曝を抑えるように設計されている。肝臓の腫瘍を治療する場合、従来のガイドラインでは、少なくとも700ccの健康な肝組織に対しては損傷可能性のある放射線量を照射してはならないと規定するが、すべての患者がこの要件を満たせるわけではない。Enoch Chang医師発表の新しい第1相試験は、 単一光子放射断層撮影(SPECT)の画像情報を用いて安全に切除放射線治療を行うことができ、機能する肝臓の体積が規定より少ない患者の治療が可能であることを示している。肝臓に転移のある大腸がん患者12人を対象とした研究では、この方法によって線量制限毒性が発現した患者はいなかった。より大規模な臨床試験で確認されれば、このアプローチで肝指向性切除放射線療法を受けられる患者数が増加する可能性がある。Chang氏は10月4日に研究結果を発表する。
ASTRO表彰
- Kristi Brock博士、画像物理学教授が2023年度ASTROフェローに指名
- Wendy Woodward医学博士、乳房放射線腫瘍学教授兼暫定委員長、ASTRO Science Council副議長に選出
- 監訳 松本恒(放射線診断/仙台星陵クリニック)
- 翻訳担当者 奥山浩子
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- 原文掲載日 2023/09/29
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