2007/03/20号◆特集記事「2020年には深刻な腫瘍医不足が予想される」
同号原文|
NCI Cancer Bulletin2007年03月20日号(Volume 4 / Number 12)
____________________
◇◆◇特集記事 ◇◆◇
2020年には深刻な腫瘍医不足が予想される
今後20年間に年齢65歳以上の人口が2倍になると推定され、また同時に、癌の発生率、有病率および生存率の増加によって、癌患者の数が、患者の治療にあたる腫瘍医の数を大きく上回る状況が予想されるという新たな報告が先週発表された。
米国臨床腫瘍学会(ASCO)向けにアメリカの医科大学協会(AAMC)が作成したこの報告によると、2020年までに腫瘍医の診察が48パーセント増加すると推定される一方、同じ期間における腫瘍医の供給は、わずか14パーセントの増加しか見込めない。その結果、毎年940万~1,510万件分の診察が不足する事態となる。
「われわれは、この事態の深刻な状況を重んじ、後まわしにするのでなく、即刻対応すべきと考えます。」と、論文共著者であるEdward Salsberg医師(AAMCセンター労働人口調査責任者)は述べる。
「医療供給体制に関わる労働力では、今後10年,15年後に(癌医療サービスの)需要の急増に対処するには難しい状況となることが考えられます。」と、論文の共著者であり、ボストンのベスイスラエル・ディーコネス医療センター、およびASCO腫瘍科労働人口に関する専門調査委員会のMichael Goldstein医師はつけ加えた。
この労働人口供給予測を構築するにあたってAAMCは、現在の全国の腫瘍専門特別研究医(フェロー)、その研究奨励制度(フェローシップ・プログラム)の責任者や4000人の腫瘍医に関するこれまでの調査に加えて新たな調査をも用いて検討した。この調査における需要構成要素は、発生率、有病率の推定値と腫瘍科の診察率とし、Division of Cancer Control and Population Sciences (DCCPS:癌コントロールと人口科学部門)のHealth Services and Economics BranchとStatistical Research and Applications BranchのNCIスタッフによって、Surveillance, Epidemiology and End Results (SEER:調査、疫学および最終結果)とSEER-Medicare Linked Databaseのデータを用いて作成された。(詳細はDirector’s Updateを参照)
ここ数年、多くの専門医団体他の機関によって同様の予測が発表されており、心臓病、救命救急医療、プライマリーケアにおいても不足する事態が予想されている。
心臓病や癌が高齢と密接に関係していることから、心臓病や腫瘍科といった専門科にとって人口の「老齢化」は懸念される事項である。さらに、現在のデータでは、医師のパイプラインが将来の需要を満たすのに十分強固でないことが示唆されている。たとえば、昨年Academic Medicine誌に発表された研究によると、医師の退職数は2000年の9,000人から、2020年には22,000人以上に膨れ上がり、一方、医学部卒業生の予測数はその数に相当しない。
Goldstein医師は、また、腫瘍専門医研究奨励制度の責任者からの調査回答に基づき、資金調達の問題を理由に腫瘍専門医研究奨励制度数の増加は2010年~2011年には8%に制限されると説明した。
ASCO/AAMC研究において、基本となる供給/需要分析は、現在の医師の診療(患者の訪問数、医師助手と正看護師含む)とケアの提供パターンが同率に留まると想定して算出された。しかしながら、需要と供給の両方に影響を及ぼしうる修正も考慮に入れた別のシナリオもモデル化されている。それらの修正とは電子カルテ(EMRs)の大幅な普及、現医師の退職の延期、一定時期におけるプライマリーケア医への依存度の拡大などである。
特に電子カルテの広範な普及や腫瘍専門医研究奨励制度の参加可能ポジションをさらに増やすことなどといった一部の修正は労働力不足の問題をより軽減した。しかし、どの方法も、それだけで、もしくはいくつか組み合わせて解決策になるというものではなく、不足をさらに深刻化させうる要因もいくつか存在した。
「要するに、どのシナリオを見ても、腫瘍医不足は免れないでしょう。」と、Salsberg医師は語った。
ASCOは、予測される労働力不足に供えて提言を発行するために、診療、癌についての教育、研究、腫瘍医研修における専門家による実行委員会を召集した。この提言は今年末までに纏められる予定であり、まず、医師以外の腫瘍専門家および一般内科医による検討委員会、腫瘍認定医研修プログラムの修正、および、どのようにがん診療の効率性を向上させるかについてのASCOの指針などの分野に焦点を当てたものとなる。
— Carmen Phillips
******
野中 希 訳
瀬戸山 修 (薬学) 監修
******
【免責事項】
当サイトの記事は情報提供を目的として掲載しています。
翻訳内容や治療を特定の人に推奨または保証するものではありません。
ボランティア翻訳ならびに自動翻訳による誤訳により発生した結果について一切責任はとれません。
ご自身の疾患に適用されるかどうかは必ず主治医にご相談ください。
がん医療に関連する記事
先住民地域のラドン曝露による肺がんリスクの低減を、地域と学術連携により成功させる
2024年11月7日
「ラドンへの曝露は肺がんのリスクを高めますが、いまだに検査が行われていない住宅が多くあります。...
早期承認薬、5年後の確認試験で臨床効果を示したのは半数未満
2024年4月19日
抗がん剤不足の危機的状況をASCO副会長が議会で証言
2024年2月27日
米国がん免疫療法学会 2023(皮膚、大腸、肺がん他):MDA研究ハイライト
2023年11月30日
アブストラクト:153...