パンデミック以降の医療では、オンライン診療の保険適用、患者教育、研究の促進が必要
米国臨床腫瘍学会(ASCO)は、がん医療におけるオンライン診療の活用に関する暫定意見書を提出し、普及に向けた具体的な措置を提言している。
COVID-19(新型コロナウィルス)パンデミックに対応するために行われた柔軟な保険償還(保険機関からの支払い)が、オンライン診療の活用を促進してきた。がん医療従事者を代表する主要ながん学会は、より多くの医療従事者および患者がオンライン診療を利用できるよう、今後も柔軟な保険償還を継続するべきであると提唱する。同学会は、オンライン診療の有効性と利点についての、さらなる研究を呼びかける。本日、米国臨床腫瘍学会は、がん医療におけるオンライン診療に関する暫定意見書を発行した。暫定意見書には、連邦政府および州政府が提供する保険の適用範囲、医療への公平なアクセス、患者教育、ならびに、発展し加速するこの領域の研究に関する提言が含まれる。
「パンデミック中であっても質の高いがん医療を継続するために急速なオンライン診療の導入が進みましたが、大きな調整が必要でした」と米国臨床腫瘍学会長 Lori J. Pierce医師は振り返る。「オンライン診療の役割が進化し続ける中、公衆衛生上の緊急事態中に浮上した重要課題に関するガイダンスを提供するために、この暫定意見書は作成されました」。
全米科学アカデミーは、オンライン診療(遠隔医療)を「距離を隔てた医療機関、患者間で医療を提供および支援するための電子情報通信技術を利用すること」と広く定義している。[1]米国臨床腫瘍学会のCancerLinQ®とPracticeNETデータベースのCOVID-19追跡データは、COVID-19感染拡大により対面診療に代わりオンライン診療の急激な増加を示すものの、治療に関する重要な変化は示唆していない。
米国臨床腫瘍学会の意見表明は、がん医療におけるオンライン診療に関する、プライバシー保護、データセキュリティ、および医療賠償責任などの課題についても言及している。さらに、米国の公的保険であるメディケア・メディケイド・サービスセンター(CMS)がオンライン診療の保険償還率および適用範囲を調整したことから、オンライン診療利用拡大による、医療サービス利用および医療費の増加を懸念する声もあがっている。がん医療におけるオンライン診療にかかる費用、受診意向、および有用性に関する理解を深めるために、さらなる研究が必要である。
腫瘍医がこうした懸念に対処し、オンライン診療を実施するにあたってガイダンスを提供するために、米国臨床腫瘍学会は以下の提言を作成した。このガイドラインは、米国政府による公衆衛生緊急事態宣言下、COVID⁻19パンデミックにおけるがん医療の現状を反映したものとなっている。
• メディケア・メディケイド・サービスセンターは、緊急事態時および収束後も、引き続き医療従事者および患者がオンライン診療を利用できるよう、柔軟な保険償還を継続することを検討すべきである。メディケアは、新型コロナウイルス経済救済法(the Coronavirus Preparedness and Response Supplemental Appropriations Act)の成立によって、診療所、病院、その他のオンライン診療の提供機関に対して保険償還を行うことができるようになった。メディケアのオンライン診療における保険適用要件の多くは、その性質上、議会の承認がなければ改訂できない。しかし、メディケア・メディケイド・サービスセンターは、オンライン診療への保険償還に関しては、規則改定により恒久的な変更を行う権限を持つ。
• 州政府および連邦政府の政策立案者は、音声のみによる診療への適切な保険適用と償還を恒久的に行うべきである。コンピュータの知識やWi-Fiへのアクセスがない患者にとって、音声のみのサービスが有用である可能性がある。緊急事態収束後も、連邦・州政府機関はこうした規制緩和を継続するべきである。
• 政策立案者は、全保険機関が提供する全保険による、オンライン診療に対する保険適応の拡大および適切な保険償還を保証するべきである。オンライン診療サービスおよび保険償還率が対面診療サービスとおおむね同じになれば、医療機関および医療従事者にとって、オンライン診療が一つの診療モデルとなり得る可能性がある。政策立案者は、患者を医療施設に行かせるのではなく、患者が自宅を「起点」としてオンライン診療を利用できるよう、措置を講じるべきである。 これらの指針は、がん予防からサバイバーシップまで、一連のがん医療に適用されるべきである。
• 連邦政府および州政府は、無償医療サービス提供者を含め、全ての医療機関が提供するオンライン診療の利用を奨励し、医療格差の縮小に尽力するべきである。メディケイドおよびその他の無償医療サービス提供者は、米国における意図せぬ医療格差の拡大を回避するためにも、他の医療提供者と同様の規制緩和や財政支援を享受できるべきである。
• 全ての医療従事者および関係者による患者教育には、オンライン診療利用に関する情報を含めるべきである。医療分野におけるデジタル格差は、社会経済的要因、地理的条件、年齢、言語、健康上の問題、およびオンライン情報を利用する技術(デジタルリテラシー)の欠如などを含めた複雑な障壁により、さらに拡大している。緊急事態宣言下でオンライン診療のためのリソースが拡充していく一方、患者が効果的にオンライン診療を利用するために必要なテクノロジー、サービス、利用経験、IT活用能力の不足などの課題への対応は遅れている。
• 連邦政府および州政府は、デジタル情報技術基盤を拡充し、高速ブロードバンドへの普遍的なアクセスを促進すべきである。オンライン診療を誰もが利用できるようにするためには、米国の多くの地域で信頼性の高いブロードバンド接続が必要である。全米でブロードバンドアクセスの促進に取り組むべきである。
• 医療賠償責任保険はオンライン診療を補償対象とするべきであり、医師は診療を行う全ての州での補償を確認するべきである。コネクテッド・ヘルス 政策センター(Center for Connected Health Policy)は、一部の医療過誤保険はオンライン診療を補償対象とするが、全てではないと言う。医療賠償責任保険の提供機関は、オンライン診療とデータセキュリティのリスクも補償対象とするべきである。また、医療賠償責任保険の提供機関が他州へ適用を拡大していない可能性があるため、医師は適切な補償を確認する必要がある。[2]
• 保険提供機関は、公的、または民間に関わらず、医療機関および患者にとって負担を増やす診療利用審査をオンライン診療に適用するべきではない。患者が必要な時に医療にアクセスすることを妨げる、事前承認または治療の遅延などは行われるべきではない。
米国臨床腫瘍学会は、教訓を生かし医療の質と患者の経験を向上する方策を明らかにしていくなど、オンライン診療の発展を注意深く見守っていく。オンライン診療およびパンデミック関連の問題に関するガイダンスは、米国臨床腫瘍学会のCOVID-19リソースセンターで入手可能である。
米国臨床腫瘍学会 暫定基本方針:がん治療におけるオンライン診療 。
オンライン診療に関する情報は、米国臨床腫瘍学会が運営する患者情報ウェブサイト、Cancer.Netから。
[1] Telemedicine: A Guide to Assessing Telecommunications for Health Care Marilyn J. Field, Editor; Committee on Evaluating Clinical Applications of Telemedicine, Institute of Medicine
原文掲載日
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