医薬品開発支援にリアルワールドエビデンスの利用を促す新戦略-FDA局長声明

医薬品およびバイオ製品の開発支援にリアルワールドでのエビデンスの使用を促す新たな戦略的枠組みについて。FDA局長であるScott Gottlieb医学博士による声明  2018-12-06

医療システムは、現在、膨大な健康関連データを収集し使用するにあたり、電子ツールを活用するためのより効果的な方法を取り入れはじめている。これらのツールは、医療の発展のため、患者の日常診療を通して収集されたデータを利用する新たな機会を提供する。規制当局の決定を改良するために、一般にリアルワールドデータ(RWD)と呼ばれるデータを活用することは、FDAにとって重要な戦略的優先事項となっている。本日、FDAは、これらの機会をどう推進し続けていくかについて、新たな2019年版「戦略的枠組み」を発表する。

さまざまな情報源から収集されたリアルワールドデータ(RWD)は、エビデンスを生み、臨床転帰をよりよく理解するための新たな機会を提供する。これらのデータは、電子医療記録(電子カルテ)(EHR)、医療費請求、医薬品および疾病の登録制度、臨床検査結果、さらには民生用モバイル機器と組み合わせた最先端技術など、さまざまな情報源から派生する可能性がある。これらのデータは、規制当局の政策決定に用いる医療情報ならびにリアルワールドエビデンス(RWE)の開発のために現在使用されている。調査研究だけでなく、医療現場で実際に新たな治療法を用いた医師や患者の経験を網羅するデータが含まれているため、これらデータ情報源の総合的な評価は、患者や医療提供者による臨床的意思決定に役立つ可能性があり、医薬品の性能をわれわれに知らせ、継続的な技術革新を推進するためのさらなる医療品開発への新たな仮説を展開する。

リアルワールドでのエビデンスは、医薬品の最適な使用方法についての理解を補完、強化および拡張することのできる潜在的な情報源を提供し、医療に関する知識を進歩させる。

リアルワールドデータおよびエビデンス(RWD/RWE)は、リアルワールドでの使用中に市販後の医薬品の安全性を監視する場合に特に有用である。いくつかの例を挙げると、センチネルシステムに由来するリアルワールドデータおよびエビデンス(RWD/RWE)の使用により、5つの医薬品を含む9つの潜在的な安全上の問題に関して市販後調査の必要性がなくなり、市販後の安全性評価がより迅速かつ効果的となった。目的は、信頼性が高く、高品質で実用的な安全情報を患者や医療提供者により迅速に届けることである。従来の市販後調査は、通常、設計および完成までに何年もかかり、数百万ドルもの費用がかかる。リアルワールドデータおよびエビデンス(RWD/RWE)の使用により、より広範囲の安全信号が提供され、それらをより効率的にフォローアップすることで、重要な回答を患者と医療提供者に迅速に提供できる可能性がある。われわれはまた、オピオイド使用のパターンを理解するために、センチネルイニシアチブも利用した。(*FDA Sentinel Initiative:保険診療請求から薬剤安全性調査を行う)

これらのツールは、われわれがいくつかの研究から、データ収集を診療現場へと徐々にシフトすることを可能にし、データ収集と実用的なエビデンスの開発をより効率的にする。これらの機会はすでに認識されている。例えば、腫瘍学の分野では、リアルワールドデータおよびエビデンス(RWD/RWE)が、われわれの評価している情報全体の一要素として、進行中の評価を通知するのに役立っており、その検討結果をもとに現在新薬申請を行っている。このことは、非常にまれな種類の腫瘍など、一般的にみられない疾患の治療法の評価に際して、特に重要である。これらの機会を利用するために、市販後の安全性問題の特定、評価および対処は、いまや政府機関内において多くの専門的な分野が関わる投機的事業となっている。さらに、これらの試みは、世界的なFDA、グローバルの規制当局と産業界間とのより密接な相互作用をますます必要としている。

技術の進歩もこれらの機会を促進している。自然言語処理(NLP)などの新たな技術革新は急速に成熟しており、一例報告、文献、電子カルテ、ソーシャルメディアなどの情報の情報統合を促進する。これは、医療を決定する際の情報の手助けとなるリアルワールドデータおよびエビデンス(RWD/RWE)の使用増加に一致する。FDAのセンチネルイニシアチブの安全機能は拡大し続けており、積極的な監視がより現実的になっている。多くの場合、医薬品の市販後評価のためのより効果的で包括的かつ達成可能なツールとして、積極的な市販後のリスク特定と分析(ARIA)が市販後研究の必要性に取って代わりつつある。こうした機会の結果として、これらのツールは市販後の安全性評価のための市販前計画において重要性を増している。

FDAは、リアルワールドデータおよびエビデンス(RWD/RWE)の重要性を認識している。これはFDAにとって最優先の戦略的優先事項である。これらのツールの可能性を最大限に引き出すことで、新たな治療薬の開発を進め、規制当局がライフサイクルの継続的な期間にわたって医薬品の監視を強化することに尽力している。

そのためにも、今日、医薬品や生物学的製剤の審査プログラムに適用する新たな戦略的アプローチであるリアルワールドエビデンス・プログラムに対する枠組みを発表している。この枠組みは、医薬品やバイオ製品開発の取り組みを通し、FDAの決定に情報を与え、具体化するために、患者および医学界から収集された情報を活用することを目的としている。この戦略的枠組みは、これらのツールの使用を促進するためのわれわれの努力の礎となることだろう。今後数カ月で、このプログラムにおいて、リアルワールドデータおよびエビデンス(RWD/RWE)をよりよく活用する他の新たな構想を進める予定である。

FDAはすでに規制当局の決定にリアルワールドでのエビデンスを取り入れ始めている。「21st Century Cures Act」は、FDAがこれらの取り組みをどのように進めていくかについて、包括的な計画を発表するよう要求していた。

すでに述べたように、市販後の分野では、センチネルシステムを通じて医薬品や生物学的製剤の安全性を監視、評価するためにリアルワールドデータおよびエビデンス(RWD/RWE)を使用している。このシステムは、電子カルテ、保険請求データおよび患者レジストリなどの大量の電子医療情報からのデータ、すなわちさまざまな種類のデータストリームからのデータにアクセスする。状況によっては、腫瘍や希少疾患における単群臨床試験の比較群を確立するために、リアルワールドエビデンスが患者レジストリ、自然経過研究および診療報告のデータを使用して医薬品承認の有効性評価の裏づけを行うことも受け入れた。医薬品承認後のライフサイクル全体を通して把握されたリアルワールドでのエビデンスは、新薬の開発と既存薬品の変更の両者を報告する上で大きな助けとなった。また、最近発表されたMyStudies mobile applicationなど、患者から報告された情報をより効果的に活用する方法も模索している。

本日発表の戦略的枠組みは、リアルワールドデータおよびエビデンス(RWD/RWE)を規制当局の方法論により完全に組み入れるためのロードマップとして役立つだろう。その枠組みでは、承認薬に対する新たな効能の承認を裏付けるため、または承認後の研究の要件を確認ないし満たすために、RWEを使用する可能性を探るために、多くの重要なRWE関連の取り組みを概説している。この新たな枠組みは、規制当局の決定が消費者に明白な結果をもたらす裏付けとなるRWE使用の可能性をFDAと業界が評価するのに役立つだろう。

この”枠組み”の下で検討される可能性のある進歩には、投与量、投与レジメン、投与経路の変更などの適応追加や修正、新たな患者群の追加、あるいは相対的な有効性や安全性情報の追加を含む医薬品やバイオ製品の有効性、安全性に関する表示改訂を裏付けるためのリアルワールドデータおよびエビデンス(RWD/RWE)の使用が含まれる。本枠組みでは、実証プロジェクトやステークホルダーのかかわりを確立し、RWEの評価に最高位のリーダーシップを取り入れる内部プロセスを含み、かつ本枠組みを適用する際の共通の学習過程や一貫性を促進する。また、RWEの開発と使用に関心のあるスポンサーを支援するための新たな指導文書の作成にも取り組んでいる。

例えば、今年の初めに、臨床開発中に本データの活用を望むスポンサーを支援するために、前向き臨床調査における電子カルテの使用に関する手引きを発行した(*pdf :Use of Electronic Health Record Data in Clinical Investigations Guidance for Industry)。これらの機会を促進するために、他の手引き書を作成している。これには、医薬品審査の判断の手助けに利用できるようなエビデンスの種類について言及する新たな手引きを含んでいる。

この新たな戦略的枠組みを実行するにあたり、リアルワールドデータの収集と分析に関する基準と方法論の特定に取り組む予定である。これはすでに積極的に進められている重要な戦略的優先事項である。この戦略的枠組みでは、規制当局の決定に対する有効なエビデンスをつくるための一つのツールとして、実用的なデザイン要素を組み込んだ臨床試験のデザイン的に考慮した新たな手引きの作成を必要としている。また、医薬品やバイオ製品の有効性を実証するための一連のエビデンスに寄与する観察研究の潜在的な役割についても評価する。目標は、リアルワールドエビデンスによる手法がFDAの医薬品開発および規制当局のライフサイクルの不可欠な部分であることを確認するための道筋を築くことである。

医療上の決定を通知するために、これまで以上に多くのデータが利用可能である。しかし、この情報の適切な収集と評価に関する明確な指針を提供する必要がある。今回の枠組みでは、適切で一貫性があり、規制当局の意思決定により役立つ情報と知識を提供することを目的としたデータの収集を推進している。例えば、現在使用されている電子医療記録および医療費請求データは、重要な関心のある質問に答えるために必要なすべてのデータ要素を把握しているわけではない。だからこそ、われわれの新たな「枠組み」の一部は、RWDの他の情報源とのギャップを埋めるための戦略を探ることであり、その情報源には、モバイル技術、アウトカムツール、ウェアラブル、バイオセンサーから報告された電子患者情報の使用が含まれるだろう。エビデンスを作っていく未来を形づくることを目的としているため、最大限のプライバシーを確保しながら、正確かつ一貫して個々の患者データを記録することは、重要な課題となるだろう。

今回の「戦略的枠組み」は、FDA内で進行中の長年の努力の集大成となる。患者や医療提供者への情報提供を強化するために、リアルワールドデータおよびエビデンス(RWD/RWE)の使用を促進することは、われわれの取り組みにおけるもう1つの画期的な出来事である。昨年9月、政府機関は、規制当局の決定に際しRWE使用の評価に対する仕組みを議論する会議(*外部リンク)のスポンサーに援助した。他の公共ワークショップへの参加(*外部リンク)のほか本会議中に、業界、学界、患者支援団体が、RWD/RWEを使用することで直面するいくつかの課題と新たな機会の到来を分かち合っていると聞いた。

これらすべての目標を達成するために、FDAは他の取り組みを進めている。例えば、政府機関はいくつかの治療領域から30の臨床試験の結果を再現するために観察的リアルワールドエビデンス(RWE)の可能性を評価するためのプロジェクトに資金を供給している。臨床試験の結果を再現することができるということは科学的手法の礎石である。この企画は、RWEの方法や試験設計が、規制当局の決定にこれらのデザインを使用することの機会と限界についての洞察を与えることができるのだという、より深い洞察を与えてくれる。

FDAは、学界、患者支援団体、国立科学・工学・医学アカデミーなどの団体との企画や計画に引き続き参加する予定である。データの利用性を高める方法として、メディケアおよびメディケイド(米国公的保険)サービスセンター、退役軍人健康管理センター、疾病予防管理センターなどの米国の機関と提携している。われわれはヨーロッパのような国際的なグループと協力して、医療システム間でどのような類似点と相違点があるかについてよりよく理解するために働き続けるだろう。

この新たな取り組みのすべてを通じ、われわれは、流通医薬品のライフサイクルに患者および医療提供者からの情報をよりよく利用することを望んでいる。まもなくFDAは、今日の現代情報科学および高度な解析技術のもと、エビデンス基準を解釈するガイダンスについてさらに多くを語ることができるだろう。そしてそれは、データ収集およびエビデンスの生成に新たな道を開くものとなる。今日のデータは、これまで以上にさまざまな情報源から取り込まれている。そして、患者の治療にこうした情報提供のために活用するより多くのツールがある。将来を見据えて、エビデンスを収集し適用する方法を見つけることは、より良い総合的な医療を提供することに近づくものである。

米国保健社会福祉省(NHS)の機関であるFDAは、人および動物用医薬品、ワクチン、その他の人が使用する生物学的製剤および医療機器の安全性、有効性、および安全確保を保証することによって公衆衛生を保護する。当局はまた、わが国の食糧供給、化粧品、栄養補助食品、電子線を放出する製品の安全性と安全確保、およびタバコ製品の規制についても責務を負っている。

翻訳担当者 橋本奈美

監修 後藤悌(呼吸器内科/国立がん研究センター)

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