2010/01/12号◆クローズアップ「終末期ケア選択におけるビデオの効果」

同号原文
NCI Cancer Bulletin2010年1月12日号(Volume 7 / Number 1)
日経BP「癌Experts」にもPDF掲載中〜

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クローズアップ

終末期ケア選択におけるビデオの効果

過去数十年間の癌治療のめざましい発展にもかかわらず、癌は依然として米国における死因の第2位である。毎年50万人の癌患者がどのような終末期ケアを受けるかの選択を迫られる。この選択は心情的な問題であるだけでなく、終末期ケアの医学的な選択肢は幅広く、その目的もさまざまであるため、複雑な問題でもある。
医師と患者のコミュニケーション不足、また、患者の医学用語の理解が限られていることが多いため、終末期ケアの話し合いが妨げられることがある。十分な情報を得た上でどのような終末期ケアを受けるかを決めなければ、患者は自分の価値観や自ら思い描いた人生の最終章の日々にはそぐわない、つまり患者自身とその愛する人たちを苦しめるような終末期ケアを選ぶことになってしまう。

「終末期ケアに関して話が抽象的になる場合は、よく私たちは患者さんに、想像できないような、またはほとんど経験したことがないようなものを想像してくださいと言います」と、マサチューセッツ総合病院の内科医師Dr. Angelo Volandes氏は言う。「私たちは、患者が十分な情報に基づく判断をするために必要な情報をすべて持っているかを確認したいのです」。

事実を知ること

Volandes氏とボストンとピッツバーグの病院の医師らは、終末期ケアの最終的な選択において、患者教育が果たす役割について研究している。終末期ケアは、大まかに3つの種類に分類できる。心肺蘇生術(CPR)や人工呼吸器使用などの非常手段などの延命治療と、感染症や他の治療可能な病気に対する投薬などの基本的な治療、そして患者の痛みを取り除き、症状を和らげることを目的とし、延命治療や治療可能な症状に対する投薬は行わない緩和ケアである。

重症患者にとっては利益が限られるにもかかわらず、進行癌患者の多くは、延命治療を選ぶ。(たとえば、進行癌患者の90%でCPRは成功しない。また、CPRと人工呼吸により救命される10%未満の患者でも、ほとんどがそれによる合併症を発症する。)

「これらの医療的介入がもたらすことについて、多くの人々が事実を誤解しているのではないかと懸念します」とVolandes氏は述べた。「私たちがこの話をする時、患者さんが使う言葉や頭にあるイメージは、臨床的事実よりもむしろテレビや最近放映された『グレイズ・アナトミー』の内容およびこの手の番組の影響をかなり受けていると思います」。

患者の終末期ケアに用いられる医療技術の種類の理解を促す上で、終末期ケアの選択を描写するビデオが、従来の口頭説明より優れているかを検討する試験が最近行われた。ランダム化臨床試験に悪性神経膠腫患者50人を組み入れ、口頭説明群(27人)とビデオ群(23人)に割り付けた。口頭説明群の患者は、3種類の終末期ケアと各々の限界について説明を聞いた。ビデオ群の患者は、同じ口頭説明を聞いた後、同じ口頭説明(ナレーション)に沿って映像の入った6分間のビデオを見た。この結果は、Journal of Clinical Oncology誌1月10日号に掲載されている。

ビデオには、CPRと挿管、抗生物質の静脈内投与、酸素の使用、鎮痛剤の服用など、三種類の終末期ケア全てのシミュレーションが含まれていた。シミュレーションの妥当性と正確性は、腫瘍専門医10名、救命専門医3名、緩和ケア専門医3名、医療倫理専門家3名により監修 がなされ、必要に応じて原稿は編集された。

口頭説明後、またはビデオを見せたあとに、各患者の希望する終末期ケアの種類とCPR実施の希望について記録した。この試験では、説明されたケアの種類についての理解、およびビデオを見た感想を尋ねた。

十分な情報を得た上での選択

ビデオ群の参加者からは、議論されている医療介入についての知識がかなり増えたとの報告があった。「医師の説明ではわからなかったが、映像を見て医療介入の意味が理解できたと、患者さんたちは話しました」とVolandes氏は語った。ビデオ群の患者全員が、このビデオを、必ずまたはおそらく、他の癌患者に勧めたいと述べた。

口頭説明群では11人の患者がCPRを希望し、16人が拒否した。ビデオ群では、CPRを希望したのは2人のみで、21人が拒否した。

口頭説明のみの患者では、7人が延命治療を、15人が基本的な治療を、6人が緩和ケアを望んだ。ビデオを見た患者では、延命治療を望む患者はなく、1人が基本的な治療を、21人が緩和ケアを望み、1人がわからないと回答した。

映像による情報提供

「患者さんとこれらの難しい話をするときに大切なこと、それは患者が何を望むか、またどう感じるかだけでなく、この深刻な病気に対する心理学的アプローチなのです」。NCIのコミュニティ腫瘍学・予防的試験研究グループの緩和ケア研究のリーダー、Dr.Ann O’Mara氏は言う。「たとえ終末期であっても、私たちは、患者が十分な情報に基づいて判断をするために必要な情報を提供しなければなりません」。

「ビデオを使うと、医師は患者さんに話の内容を理解できるような方法で難しい話題を切り出せるようになります」とVolandes氏は述べた。「現在患者が情報を入手している方法に合わせる必要があります。私たちはメディア社会に生きています。私たちは映像で学んでいます。ビデオは私たちが医師として患者さんに情報を提供できる新たな手段なのです」。

農村部と都市部の病院の様々な種類の癌患者を対象として、ビデオ使用の効果を試す大規模多施設試験が2010年に始まっている。

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末期患者の体調が良い間は、医師は終末期ケアの話をしない傾向がある。医師は余命1年以下の患者と終末期ケアについて話し合う際に、国のガイドラインに従っているかを調べるため、ボストンのブリガム&ウィメンズ病院とハーバード大学医学部のDr. Nancy Keating氏率いる研究チームは、癌患者の治療にあたる国内の4074人の医師を対象に調査を行った。これによると、ほとんどの医師は、患者の体調が悪くないうちは、蘇生を希望するか、どこで最後の瞬間を迎えたいかなど、終末期の問題についての話をしたくないと思っていることが明らかになった。患者に症状が現れるまで、または緩和療法以外の治療法がなくなるまで、終末期ケアの話を待つ傾向があった。終末期ケアの選択の話し合いに精通していると思う医師は、蘇生拒否、ホスピスケア、死を迎える場所について、時を待たずすぐに説明する傾向があった。「末期癌患者へのより良いケア計画を作成するために、終末期ケアの知識、および患者、医師、病院の協力が必要になるだろう」と著者らは結論づけた。この調査結果は、Cancer誌オンライン版1月11日号に掲載された。

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寺田 久美子 訳
金田澄子(薬学) 監修 

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