2011/01/11号〜発行250回記念号〜◆特集記事「化学療法剤の継続的な不足による懸念」
同号原文|
NCI Cancer Bulletin2011年1月11日号(Volume 8 / Number 1)
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◇◆◇ 特集記事 ◇◆◇
化学療法剤の継続的な不足による懸念
政府および専門家グループの代表者によると、数年前より言われ始めた一般的な化学療法剤の深刻な不足は2010年にさらに悪化し、医療施設に打撃を与えており、患者間また医師の間でも懸念が生じている。継続的な不足は、麻酔や危険な感染症の治療でよく使用される薬剤を含む広範な医薬品不足の一部で、患者の治療や臨床試験について不安が高まってきている。
これらの臨床試験では薬剤が治療の重要な要素であり、その多くがジェネリック医薬品である。「不満や懸念の高まりを耳にしています」と、スタンフォード大学医学部の小児癌専門医で米国臨床腫瘍学会(ASCO)の次期会長Dr. Michael Link氏は述べた。
患者の治療に対する影響の大きさは計り知れないが、判明している限りでは「この30年で最悪の不足状態で、その影響は広範囲に及びます」と指摘した。 FDA医薬品評価研究センターの医薬品需給監視プログラム副責任者Valerie Jensen氏は、不足している化学療法剤はすべて無菌注射剤として知られる薬剤に分類されると解説した。
実際、無菌注射剤は医薬品不足全体の77%を占める。 生産と品質の問題が薬剤不足の主な原因であったが、問題が製薬ビジネスの実態に由来する可能性もあると、Jensen氏は電子メールで説明した。これは特に無菌注射剤の化学療法剤の場合に該当する。
以前はこれらの無菌注射剤の多くを製造する適切な数の製薬会社があったが、近年これらの会社の多くが「より新しくより利益の大きい製品を求めて」医薬品の製造中止を選択した、とJensen氏は説明し、さらに「工場には限られた数の製造ラインしかないため、保有する製造ラインで一定数の製品しか製造できないのです」と続けた。
例えば、ロイコボリンは一時8社が製造承認を得ていたが、ごく最近まで製造を続けていたのはわずか2社にとどまった。最近FDAは他社にロイコボリン製造開始の承認を与えたと、Jensen氏は述べた。
協力して問題に取り組む
問題の大きさおよび解決のめどが立たないことから、ASCOは11月に米国病院薬剤師会(ASHP)、米国医療安全研究所(ISMP)、米国麻酔医学会と共同で会議を開催し、不足の原因を分析し、最適の対処法および今後このような問題の防止策または抑制策を議論した。
ASHP職員と同様に、不足状況を詳細に追跡し、ウェブサイトで供給不足の薬剤の状況について毎日新情報に更新しているNCIやFDAの職員も会議に出席した。議事録が今月後半にも入手可能となると、Link氏は述べた。 その間にも、医療施設と医薬品供給者は不足対策に全力を尽くしている。しかし、状況ではとりわけ規模の小さい診療所や施設に大きな打撃を与えているのは明瞭である。
1800人の医療関係者を対象に9月に実施されたISMPの調査によると、薬剤不足により代替薬を使用せざるを得ない場合に、病院や他の医療施設は投与量や投与頻度などの問題に対応しなくてはならず、医療ミスのリスクが上昇している。回答者の3分の1以上が、薬剤不足により患者に悪影響をもたらしうる医療ミスが起きたと述べた。
例えば、肺癌など多くの癌治療に使用されるエトポシドはこの2年間断続的に供給不足に陥っている。これを製造する4社のうち、理由として製造上の問題を挙げることができたのは1社のみであった。 通常エトポシドは静脈内投与が望ましいと、セントルイスBarnes-Jewish病院の臨床癌専門薬剤師Dr. Ali McBride氏は説明した。しかし静脈内投与製剤不足により、癌専門医はしばしば経口製剤に頼らざるをえなくなり、「これが投薬の問題を引き起こしています」と述べた。
エトポシドは小児を含め造血幹細胞移植を受けた患者にも使用される。同氏によると、いくつかの症例で、薬剤を入手できずに治療を延期しなければならなかったという。 よく使用される別の2つの化学療法剤ドキソルビシンとシスプラチンの不足も「現実問題」になっているとLink氏は言う。「ドキソルビシンはとても広く使用されていますので、影響は甚大です」と続けた。特に転移性乳癌、肉腫、リンパ腫など多くの疾患で、ドキソルビシンは治療の中心であるためである。「臨床試験で、転帰の改善の中心を担うことが示されています」。
シスプラチンについての最大の懸念は精巣癌で、その使用が化学療法で見られるきわめて高い生存率と直接関連する。代替薬のカルボプラチンは「若い精巣癌患者での救命率が10〜15%低下します」と、インディアナ大学医学部のDr. Lawrence Einhorn氏は最近のASCOのインタビューで説明した。
薬剤の供給不足が深刻である場合、通常最も利益の得られる患者に薬剤が提供される。McBride氏は、ほとんどの場合、「治療が有効な患者が優先されます」と言う。 不足の医療施設に対する影響は施設の種類により異なるようだと、ASHPの医薬品使用の品質向上部門長Bona Benjamin氏は指摘した。「大病院ほどの使用量がない外来点滴センターなどの施設では、施設規模に比例して薬剤量が少なくなる可能性があります」、「そのためこれらの施設の一部では大規模な医療センターより薬剤不足を実際問題として現実的に感じています」と説明した。
臨床試験への影響
癌の臨床試験も薬剤不足による影響を受けているが、その程度は明らかではない。NCIはその共同臨床試験グループに対し、治療計画の一部である薬剤の供給不足またはまったく入手できない場合の対処法についてアドバイスしている。
「薬剤不足時の最優先事項は、その時点で試験に登録している全患者の適切な治療を確保すること」と、NCI癌治療・診断部門のDr. Margaret Mooney氏は説明した。連邦規則では、プロトコル治療に不可欠な要素が利用できないなどの緊急の危険が生じた場合、患者の安全性を確保するために試験プロトコルからの逸脱を試験の責任者に認めている。これらの治療の変更は文書に記録し、被験者と臨床試験を監視する審査委員会(IRB)に通知しなければならない、と同氏は述べた。
さらに、新規患者については、試験で使用している薬剤の適切な供給を受けられるどうかを、試験施設は薬剤師と協議して決定しなければならない、と続けた。供給できない場合は、新しい患者の組み入れを一時的に停止する。不足の長期化が予想される場合、容認できる代替薬があればIRBの審査と承認を得てプロトコルを改訂する場合もある。これは試験ごとに対処されることであると、Mooney氏は述べた。
「危機ではありませんが、影響を実感しています」と、米国北中部癌治療グループ(NCCTG)の議長でメイヨークリニックのDr. Jan Buckner氏は述べた。同グループは薬剤供給不足で試験の中止に追い込まれた経験はないと指摘した上で、「しかし治療上同等と考えられる代替療法を特定しておかねばならなくなっています」と述べた。
また、薬剤不足により、NCCTGは患者の試験登録前に試験施設で十分な薬剤を入手することに特に気を配るようになった。「グループの試験施設から供給業者の確保または薬剤の分配について援助を求める電話を受けたことがあります」と、Buckner氏は続けた。「地域の薬局と施設が十分な供給を確保するために協力しています」。 臨床試験での薬剤不足は臨床試験を減速化または停止させる可能性がある。しかし、薬剤不足により多くの患者が元のプロトコルとは異なる薬剤投与を受けた場合の試験データ解析の問題が今後のしかかってくるであろうと、Link氏は述べた。
代替薬に大きく頼らざるを得なかった試験の解析に、薬剤不足がどのような影響を及ぼすかを現時点で判断するのは極めて困難だとMooney氏は強調した。
医薬品不足に関する11月の会議で、将来を見据えていくつかの共通の課題が明らかになり対策が提案された、とLink氏は述べた。一部は法律や規則の変更を要するが、他はより直接的である。「FDA、製薬会社、供給者間の情報交換の改善が絶対に必要です」と述べた。
世界的に癌による負担が大きくなり、一般的に使用される抗癌剤の市場は拡大しているため、全利害関係者はこの問題を注視し続ける必要があると、McBride氏は強調した。
— Carmen Phillips
【表下キャプション訳】米国の医薬品不足は過去4〜5年にわたり悪化し続けているが、供給不足の中で無菌注射剤、特に一般的な化学療法剤の不足数が2009年から2010年にかけて劇的に増加した。
(FDA医薬品評価研究センター提供データ) ⇒[表原文参照]
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榎 真由 訳
小宮 武文(呼吸器内科/NCI Medical Oncology Branch) 監修
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