身体活動とがん
このページについて
■身体活動とは
■身体活動とがんリスクの関係について、どのようなことがわかっているか
■身体活動は、がんのリスク低下とどのように結びつくか
■座りがちな生活を送ることとがんのリスクとの関係については、どのようなことがわかっているか
■どの程度の運動が推奨されているか
■身体活動はがんサバイバーにとって有益か
■身体活動とがんの関係については、他にどのような研究が行われているか
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■身体活動とは
身体活動とは、骨格筋を使い安静時よりも多くのエネルギーを必要とする運動と定義されている。身体活動には、ウォーキング、ランニング、ダンス、自転車、水泳、家事、運動、スポーツなどがある。
身体活動の強度を特徴づけるために、メッツ(MET)と呼ばれる測定値が使用される。1メッツとは、安静に座っている人が消費するエネルギーの割合のことである。活動の強度が軽度の場合は3メッツ未満、中等度は3~6メッツ、高強度は6メッツ以上を消費する(1:2018 Physical Activity Guidelines Advisory Committee Scientific Report)。
座位行動とは、座っている、リクライニングしている、または横になっている間のエネルギー消費量が1.5メッツ以下のすべての覚醒行動とされている(1)。座位行動の例としては、ほとんどの事務作業、車の運転、座りながらのテレビ鑑賞などがある。
人は身体的に活動的でありながら、かなりの時間を座ったまま過ごすことができる。
■身体活動とがんリスクの関係については、どのようなことがわかっているか
身体活動量の増加とがんリスクの低下を結びつける証拠は、主に観察研究から得られており、個人が身体活動量を報告し、がんの診断について何年も追跡調査を行っている。観察研究で因果関係を証明することはできないが、異なる集団での研究で同様の結果が得られ、因果関係の可能性のあるメカニズムが存在する場合には、因果関係の証拠となる。
身体活動のレベルが高いことが、複数のがん種のリスク低下と関連しているという有力な証拠がある(2–4)。
膀胱がん:11件のコホート研究と4件の症例対照研究の2014年に行われたメタアナリシスでは、レクリエーションまたは職業的な身体活動レベルが最も高い人の方が、レベルが最も低い人よりも膀胱がんのリスクが15%低かった (5)。100万人以上の人を対象としたプール分析では、余暇に身体活動を行うことが膀胱がんのリスクを13%低下させることが明らかになった (6)。
乳がん:多くの研究で、身体的に活動的な女性は、活動的でない女性に比べて乳がんのリスクが低いことが示されている。38件のコホート研究を含む2016年に行われたメタアナリシスでは、最も身体的に活動的な女性は、最も身体的に活動的でない女性に比べて乳がんのリスクが12~21%低かった (7)。身体活動は、閉経前女性および閉経後女性いずれにおいても同様に乳がんリスクの減少と関連している(7, 8)。閉経後に身体活動を増やした女性も、活動量を増やさなかった女性よりも乳がんリスクが低い可能性がある(9, 10)。
大腸がん:2016年に行われた126件の研究のメタアナリシスでは、最も高いレベルの身体活動を行った人は、最も身体活動が少ない人に比べて大腸がんのリスクが19%低かった (11)。
子宮体がん(子宮内膜がん):複数のメタアナリシスおよびコホート研究では、身体活動と子宮体がん(子宮内膜がん)のリスクとの関係が検討されている (12–15)。33件の研究のメタアナリシスでは、身体活動量の多い女性は身体活動量の少ない女性に比べて子宮内膜がんのリスクが20%低かった (12)。関連性は二次的であることを示す証拠も一部あるが、身体活動の成果を得るためには肥満を解消する必要があるということである。肥満は、子宮体がんの強力な危険因子である (12–14)。
食道がん:9件のコホート研究と15件の症例対照研究について2014年に行われたメタアナリシスでは、最も身体活動量が多い人は、最も身体活動量が少ない人に比べて食道腺がんのリスクが21%低いことが明らかになった(16)。
腎(腎細胞)がん:11件のコホート研究と8件の症例対照研究からなる2013年に行われたメタアナリシスでは、最も身体的に活動的な人は、最も活動的でない人に比べて腎細胞がんのリスクが12%低かった (17)。100万人以上を対象としたプール分析では、余暇における身体活動が腎臓がんのリスクを23%低下させることが明らかになった(6)。
胃がん:10件のコホート研究と12件の症例対照研究について2016年に行われたメタアナリシスでは、最も身体活動が盛んな人は、最も身体活動が少ない人に比べて胃がんのリスクが19%低いことが報告された(18)。
身体活動が肺がんリスクの低下と関連しているという証拠もある(2, 4)。しかし、身体活動よりも、喫煙の有無が、肺がんリスク低下との関連性を説明するものである可能性がある。25件の観察研究について2016年に行われたメタアナリシスでは、身体活動は元喫煙者と現役喫煙者の間で肺がんリスクの低下と関連していたが、非喫煙者の間で身体活動と肺がんリスクとは関連していなかった (19)。
他の複数のがんについては、関連性についての証拠はさらに限られる。これらには、ある種の血液がん、膵臓がん、前立腺がん、卵巣がん、甲状腺がん、肝臓がん、直腸がんなどがある (2, 6)。
■身体活動は、がんリスクの低下とどのように関連するか
運動は身体に多くの生物学的影響をもたらすが、その中には、特定のがんとの関連性を示すものがあり、以下のようなものがある。
・エストロゲンなどの性ホルモンや、がんの発生・進行に関連する成長因子のレベルを下げる (20)[乳がん、大腸がん]
・がんの発生・進行に関連しているインスリンの血中濃度が高くなるのを防ぐ (20)[乳がん、大腸がん]
・炎症を抑える
・免疫系機能の改善
・胆汁酸の代謝変化により、胆汁酸などの発がん性が疑われる物質に対する消化管の曝露を減少させる(21, 22)[大腸がん]
・食物が消化器系を通過するのにかかる時間を短縮することで、発がん性物質への消化管の曝露を減少させる [大腸がん]
・多くのがんリスク要因となる肥満の予防に役立つ
■座りがちな生活をおくることとがんのリスクとの関係については、どのようなことがわかっているか
座位行動とがんリスクに関する研究は、身体活動とがんリスクに関する研究よりも少ないが、座位行動、すなわち長時間(睡眠以外の)座ったり、リクライニングしたり、横になったりすることは、多くの慢性疾患の発症および早死につながる危険因子である(4, 23, 24)。また、特定のがんのリスク増加と関連している可能性もある (23, 25)。
■どのくらいの運動量が推奨されているか
2018年に発表された米国保健福祉省の「米国民のための身体活動ガイドライン第2版」では、健康に実質的な利益をもたらし、がんなどの慢性疾患のリスクを軽減するために、成人に対し下記のような活動を推奨している (1)。
・中強度の有酸素運動を150~300分、激しい有酸素運動を75~100分、または中強度と強度を同じくらい組み合わせ毎週行う。この身体活動は、1回につき任意の時間で行うことができる。
・週2日以上の筋力強化活動
・有酸素運動と筋力強化活動に加え、バランストレーニング
■身体活動はがんサバイバーにとって有益か
有益である。2018年の米国スポーツ医学会の身体活動とがん予防・抑制に関する学際的国際会議の報告書(26)では、運動トレーニングと運動テストはがんサバイバーにとって一般的に安全であり、すべてのサバイバーは、ある程度のレベルの身体活動を維持すべきであると結論づけられている。
会議では、下記についても明らかにされた。
・がん治療中およびがん治療後の中等度の強度の有酸素運動やレジスタンス運動(筋肉に負荷をかける動作)は、不安、抑うつ症状、および疲労を軽減し、健康に関連した生活の質や身体機能を改善することができるという有力な証拠
・乳がんに関連するリンパ浮腫を発症したことがある、または発症する可能性のある人に、運動トレーニングが安全であることを示す有力な証拠
・運動が骨の健康と睡眠の質に有益であることを示す一部の証拠
・身体活動が心毒性や化学療法誘発性の末梢神経障害の予防や認知機能、転倒、吐き気、痛み、性機能、治療耐性の改善に役立つという証拠は不十分であること
さらに、研究結果は、身体活動が乳がん、結腸直腸がん、および前立腺がんの患者の生存に有益な影響を与える可能性があることを示している(26, 27)。
乳がん:2019年に行われたシステマティックレビューおよび観察研究のメタアナリシスにおいて、最も身体活動的であった乳がんのサバイバーは、最も身体活動的でなかった人に比べて、あらゆる原因による死亡リスクが42%低く、乳がんによる死亡リスクが40%低かった(28)。
大腸がん:複数の疫学研究により得られた証拠から、大腸がん診断後の身体活動が、大腸がんによる死亡リスクを30%低下させ、あらゆる原因による死亡リスクを38%低下させることと関連していることが示唆された (4)。
前立腺がん:少数の疫学研究により得られた限られた証拠から、前立腺がん診断後の身体活動は、前立腺がんによる死亡リスクを33%低下させ、あらゆる原因による死亡リスクを45%低下させることとの関連性が示唆された (4)。
非ホジキンリンパ腫、胃がん、悪性神経膠腫を含む他のがんの生存に身体活動が有益な効果をもたらすという証拠は非常に限られている (4)。
■身体活動とがんの関係については、他にどのような研究が行われているのか
観察研究から得られた知見により、高いレベルの身体活動とがんリスクの低下との関連性について多くの証拠が示されている。しかし、これらの研究では、活動的な人は、他にも健康的な生活スタイルの行動を行っていることによりがんリスクが低下するという可能性を完全に排除することはできない。このため、参加者を運動介入にランダムに割り付けた臨床試験は、持病やそれに伴う身体活動の不活発さによるバイアスを排除できるため、最も有力な証拠となる。
その観察的証拠を確認し、潜在的な効果の規模を明らかにするために、複数の大規模臨床試験でがん患者とサバイバーにおける身体活動や運動介入が調査されている。これらには、新たに診断された乳がん患者を対象としたBreast Cancer Weight Loss(BWEL)試験、化学療法を終了して間もない結腸がん患者を対象としたCHALLENGE試験(29)、および転移のある去勢抵抗性前立腺がん患者を対象としたINTERVAL-GAP4試験(30)がある。
身体活動とがんに関する研究で、複数の広範な分野では、さらなる疑問に対する答えがまだ得られていない。
・身体活動ががんリスクを低下させるメカニズムは何か
・がん全体および特定部位のがんのリスクを低下するために必要な身体活動の最適な時間、強度、持続時間や頻度は何か
・座位行動はがんリスクの増加と関連しているか
・身体活動とがんとの関連は、年齢や人種民族によって違いがあるか
・身体活動は、がんリスクを増加させる遺伝的変異を受け継いだ人のがんリスクを低下させるか
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参考文献は原文参照のこと
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