FDAが未分化大細胞リンパ腫リスクのために乳房インプラントの自主回収を要求

米国食品医薬品局(FDA)は本日、乳房インプラントに関連する未分化大細胞リンパ腫(BIA-ALCL)から女性を守るため、重要な措置を講じた。特定タイプのテクスチャードインプラントの製造元であるアラガン(Allergan)社に対し、BIA-ALCLのリスクを理由に米国に流通する同社のテクスチャード乳房インプラントの特定のモデルをリコールするよう要求した。これに応じ、アラガン社は自社のBIOCELLテクスチャード乳房インプラント製品のリコールを全世界で進めているとFDAへ通知した。リコールの対象には、Natrelle食塩水充填乳房インプラント、Natrelleシリコン充填乳房インプラント、Natrelle Inspiraシリコン充填乳房インプラント、およびNatrelle 410密着性解剖学的形状シリコン充填乳房インプラントなどが含まれる。また今回のリコールには、豊胸術または乳房再建術の前に用いられるティッシュ・エキスパンダー(皮膚拡張器)も対象になっており、Natrelle 133 Plus Tissue Expander(ナトレル133 ティッシュ・エキスパンダー)およびNatrelle 133 Tissue Expander with Suture Tabsなどがそれに該当する。本リコールは、卸会社や医師のオフィスに保管されている未使用品も回収するために実施される。さらにFDAは本日、安全性情報を公開し、乳房インプラント手術を受けた患者、手術を検討している患者、および医療従事者に対し、すでに判明しているリスクと、乳房の腫れや痛みといった未分化大細胞リンパ腫(BIA-ALCL)の症状を監視する際に患者が検討すべき項目について概説している。安全性情報は、リコールされたすべてのモデルとスタイル番号に関する情報も網羅している。

「未分化大細胞リンパ腫(BIA-ALCL)の全発症率は比較的低いように思われますが、特定の製造元の製品が、死亡を含め、患者に及ぼす重大な不利益と直接関連していることをうかがわせる証拠があるわけですから、女性の健康を守るうえでリコールが妥当であることを示す新しい証拠に対し、FDAは製造元に注意を喚起しました」。FDA副理事長Amy Abernethy医師は言う。「FDAは、乳房インプラントとリンパ腫との間に関連がある可能性を最初に特定した2011年以来、この件を注視してきました。そして当時、テクスチャードインプラントを使った女性ではリンパ腫の発症率が高く、乳房インプラントの施術にはリスクが伴うことを患者や医療従事者に対して発信しました。それ以来、私たちはこの件の周知に努め、症例をすべてFDAに報告するように働きかけてきました。そうすることで、今回のような安全性に関わると考えられる兆候の監視を継続できるのです。この問題や科学が進展し続けているので、私たちは外部の登録患者情報などのデータベースだけでなく、科学文献に掲載される報告も監視してきました。そして、私たちのチームは新しいデータに基づいて、人々の健康を守るために今回、措置を講じる必要があるという結論に至ったわけです。これからも私たちは、今回の対象製品以外のテクスチャード乳房インプラント、スムース乳房インプラント、ティッシュ・エキスパンダーのほか、乳房への使用を想定した他の製品について、未分化大細胞リンパ腫(BIA-ALCL)の発症率を監視し続けます。今後、何らかの措置が必要とあらば、私たちは患者を守るために、断固必要な行動を起こします」

FDAは本日、局の未分化大細胞リンパ腫(BIA-ALCL)のウェブページの表を更新し、全世界におけるBIA-ALCLの固有症例数を累計573件、死亡者数を33人に改めた。今年初めの更新以降、累計の固有症例数、死亡者数ともに大幅な増加が認められ、増加数はそれぞれ116件、24人であった。具体的には、573件のBIA-ALCLの固有症例のうち、481件がアラガン社のインプラントに起因していた。死亡者については、本日FDAが報告した33人のうちインプラントの製造元がわかっているのは13人で、そのうち12人は未分化大細胞リンパ腫(BIA-ALCL)の診断時にアラガン社の乳房インプラントを使用していたことが確められた。これらの症例には、3月の諮問委員会会議以降にFDAに新しく報告されたデータが含まれる。この新しいデータを含め、現在入手可能な情報に基づいて行なわれたFDAの分析によって、アラガン社のBIOCELLテクスチャードインプラントに伴う未分化大細胞リンパ腫(BIA-ALCL)のリスクは、米国で販売されている他のメーカーのテクスチャードインプラントの約6倍であることが示された。

FDAのサイトに掲載されている表では、症例を要約し、乳房インプラントの表面質感、診断時の患者の年齢、最後のインプラントから診断までの時間やそのほかの詳細な項目を分析したうえで、上記の症例や死亡に影響する既知の因子について、患者や医療従事者に可能な限り完全な情報を提供している。FDAは新しく追加された症例報告を引き続き評価しており、その結果を今後数週間以内に有害事象報告のデータベースで公開する予定である。

FDAはさまざまな手段を通じて、乳房インプラントの安全性とリスクに対する理解を深めるとともに、この領域におけるFDAの措置を周知するための根拠の強化を図ってきた。そうした措置には、最新情報の公開(最近では2019年2月の発表や3月の諮問委員会会議など)や患者と医療従事者に対するFDAへの有害事象報告の奨励などがある。今回の自主回収は、収集および分析されたデータの質の向上に向けたFDAの包括的な取り組みと利用可能なすべての安全性情報を評価するためにFDAが継続している活動の直接的な成果である。

「今日のニュースは、乳房インプラント手術を受けた患者に注意を促すものだと、私たちは考えます。今回の安全性情報の公開では、特定の乳房インプラントを利用する人と医療従事者が実行に移せる情報を提供しています。FDAはリスクに起因すると思われる症状が出ていない患者にインプラントの除去を推奨していませんが、患者と医療従事者が今後どうすべきかを話し合ううえで参考にできる情報を提供しています」。FDAの放射線医療センターのディレクターであるJeff Shuren医師・法務博士は続ける。「今後も、患者さんたちに、この件に関する最新情報を提供し続けることをお約束します。私たちはいかなる新情報についても評価を行ない、場合によっては、必要に応じて他の乳房インプラント製品に関しても何らかの行動を起こすかもしれません。それに加えて、未分化大細胞リンパ腫(BIA-ALCL)を発症するリスクを高める乳房インプラントが特定のテクスチャード加工モデルの乳房インプラントに限られるのか、すべてのテクスチャード加工の乳房インプラントであるのかを見極めるための評価も続けています。そして引き続き、乳房インプラントの使用は未分化大細胞リンパ腫(BIA-ALCL)の発症リスクと関連していること、そしてそのリスクがテクスチャードインプラントの方が大きいことを女性や医療従事者に伝えていきます」

米国では、テクスチャード乳房インプラントは他の国に比べて一般的ではない。特に、マクロテクスチャードインプラント(アラガン社が製造しているタイプのテクスチャードインプラント)の占める割合は、米国で販売されている乳房インプラントの5%未満である。マクロテクスチャードインプラントは米国市場でわずかな割合を占めるに過ぎないかもしれないが、アラガン社のBIOCELLテクスチャード乳房インプラントを入手できる状態が続くと、公衆衛生が脅かされる。FDAが本日講じた措置は、フランス、カナダ、オーストラリアによって実施された措置と類似したものである。これらの国では、米国に比べてテクスチャードインプラントの使用がはるかに多く、市場シェアの80%に達する場合もある。こうした国々でも、特定のテクスチャード乳房インプラント(アラガン社が販売している特定の乳房インプラントを含む)を市場から回収または排除することを促す措置が始まったか、すでに講じられている。

加えてFDAは、乳房インプラントを検討するすべての女性が、医療従事者と慎重かつバランスのとれた話し合いをするうえで必要な情報を得られるよう、本日発表された自主回収以外の措置も始めるところである。そうすることで、安全性に関する最新の知見を反映した明解な情報を基に、患者と医療従事者が乳房インプラントに伴う利益とリスクについて議論できるようにする。たとえば、先述したように、囲みの警告文や乳房インプラントに伴う利益とリスクの比較検討をサポートする意思決定チェックリストといった、乳房インプラントの製品ラベルへの変更を勧告するといったことをFDAでは検討している。

FDAは今後も、可能なかぎりエビデンスの収集に注力し、その情報を将来の措置に活用するほか、乳房インプラントを検討する際に女性や医療従事者が未分化大細胞リンパ腫(BIA-ALCL)のリスク情報を得られるようにしていく。その目的を達成するためにFDAは、すべての乳房インプラント製造業者に対して、同リンパ腫(BIA-ALCL)を含む有害事象について四半期毎に傾向分析を行なうこと、また個々の事象を機器の有害事象データベースおよび既存の患者レジストリに報告することを求めてきた。 FDAは引き続き、乳房インプラントに関連するリスクについて入手できる情報をすべて分析し、FDAのサイトに掲載している未分化大細胞リンパ腫(BIA-ALCL)の分析を定期的に更新し、必要に応じて新たな措置を追加していく。

FDAは、患者と医療従事者にこうした製品がもたらす利益とリスクが周知され、女性が健康に関する重要な意思決定を下すうえで完全な情報を得られるように女性の健康を守り、可能な限り多くの情報を提供することに努めている。

(参考:サイト内関連記事)(*乳房再建)

翻訳担当者 筧 貴行

監修 小坂泰二郎(乳腺外科・化学療法/医療社会法人石川記念会 HITO病院)

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