ネララビンの追加でT細胞悪性腫瘍の小児および若年成人の生存率が上昇
米国臨床腫瘍学会(ASCO)
ASCOの見解
「腫瘍内科医として、私たちは、生存率が他のがんに比べて比較的高いがんであっても、患者により良いケアと転帰をもたらすよう絶えず努力しています。今回、患者の生活の質を損なうかもしれない余計な激しい副作用を引き起こすことなく、まれな型の白血病やリンパ腫を患う小児や若年成人(AYA世代)患者の生存率を大幅に向上させることができるとわかりました」と、米国臨床腫瘍学会会長でフェロー(FASCO)のBruce E. Johnson医師は述べた。
米国小児腫瘍学グループ(COG)が実施した連邦政府資金によるランダム化第3相臨床試験において、T細胞急性リンパ性白血病(T-ALL)またはT細胞リンパ芽球性リンパ腫(T-LL)の小児および若年成人(AYA)患者の90%は、この臨床試験で治療レジメンを開始してから4年後に生存しており、84%はがんのない状態であった。著者らによると、この結果は、これらのT細胞悪性腫瘍に関してこれまでに報告された中で最も高い生存率である。
標準化学療法にネララビン(商品名:Arranon)を追加することによって、T-ALL再発リスクが中等度または高い患者にさらに利益がもたらされた。つまり、治療開始4年の時点で白血病がない状態であった患者は、ネララビン投与群で89%であったのに対し、ネララビン非投与群で83%であった。本試験は、近くシカゴで開催される2018米国臨床腫瘍学会(ASCO)年次総会で発表される予定である。
「T-ALLは、非常に強力で複合的な化学療法レジメンの使用を必要とする疾患です。従来、約80%のT-ALL患者は、治療を受けてから少なくとも4年生存していますが、私たちはもっと改善できる、またそうしなければならないと感じていました」と、ロアノークのバージニア工科大学Carilion School of Medicine教授であり、本試験の筆頭著者であるKimberly Dunsmore医師は述べた。「この臨床試験によって、生存率をさらに約10%上げることができると示されました。大変心強い結果です」。
試験について
2007年に開始された本試験には、T-ALL(臨床試験参加者の94%)またはT-LL(同6%)のいずれかを有する1~30歳の患者を登録した。登録患者は1,895人で、本試験は両疾患に関してこれまでに実施された最大のランダム化臨床試験である。
本臨床試験は4群から成り、すべての患者がCOG増量Berlin-Frankfurt-Munster(aBFM)化学療法として知られている標準の、複合的な多剤併用化学療法レジメンを受けた。aBFMレジメンに加えて、入院で高用量メトトレキサート(化学療法)投与を受ける群、または外来でメトトレキサートの用量漸増投与(メトトレキサートの低用量で始まり、徐々に増加させるレジメン)を受ける群にランダムに割り付けられた。
がん再発リスクが中等度または高い患者は、化学療法、および(脳転移を予防または治療するための)頭蓋照射を受け、さらにネララビン投与群または非投与群に同じくランダムに割り付けられた。
ネララビンは、少なくとも2種類の化学療法レジメンの後に進行したT-ALLおよびT細胞リンパ芽球性リンパ腫(T-LL)患者の治療薬として、2005年にFDAによって承認された。FDAの承認を得た際の臨床試験とは異なり、本臨床試験では新たに診断された患者を対象にネララビンを検討した。
主要な結果
• 全体として、本臨床試験で治療を受けた患者の90.2%は少なくとも4年生存し、84.3%は4年の時点でがんの徴候がなかった。
• 再発リスクが高いT-ALL患者で、4年の時点で白血病がない状態であったのは、ネララビン非投与群で83.3%であったのに比べ、ネララビン投与群で88.9%であった。
• 一方、T-LL患者はネララビン追加による利益を受けなかったが、85%超の患者が病気の徴候なく4年間生存した。
• 小規模な先行試験の結果とは対照的に、T-ALL患者ではメトトレキサートの用量漸増投与群のほうが、高用量投与群よりも良好であった(4年無病生存率は用量漸増投与群で89.8%に対し、高用量投与群で78%)。
• ネララビン投与とメトトレキサート用量漸増投与の両方を受ける群にランダムに割り付けられたT-ALL患者のうち、92.2%が4年の時点で白血病がない状態であった。
• 初期治療(寛解導入療法)後にがんの寛解が得られなかった患者は、高用量メトトレキサートとネララビンを投与する群に割り付けられた。54.8%の患者が疾患の徴候なく4年間生存した。著者らによれば、これまで、がんの寛解に至らなかったT-ALL患者では約20%しかさらに3年生存していないため、著しく改善したとのことである。
次の段階
頭蓋照射後に晩期合併症が起こる可能性があるため、ほとんどの医師はT細胞白血病の治療に頭蓋照射の使用を減らす方向へ移行している。晩期合併症は、認知能力の変化、学習障害、神経内分泌の変化、および二次発がんなどである。次の段階は、臨床医が頭蓋照射を使用せずに化学療法プロトコールでネララビンを使用する際に、生じる可能性のある影響と利益を検討することである。
本試験は米国国立がん研究所/米国国立衛生研究所のがん治療評価プログラムから研究助成を受け、さらにSt. Baldrick’s Foundationから支援を受けた。
試験の概要
疾患名 | T細胞急性リンパ性白血病およびT細胞リンパ芽球性リンパ腫 |
試験の相、種類 | 第3相、ランダム化比較試験 |
試験患者数 | 1,895 |
検討した治療法 | メトトレキサート(商品名:Trexall)およびネララビン(商品名:Arranon)を標準化学療法と併用 |
主要結果 | 4年無病生存率(DFS)および全生存率(OS) |
副次的結果 | ネララビン投与患者の無病生存率 |
アブストラクトの全文はこちらを参照。
読者のために
• 化学療法とは
Bruce E. Johnson医師(FASCO)の情報開示は次の通り:Stock and Other Ownership Interests with KEW Group; Honoria from Merck and Chugai Pharma; Consulting or Advisory Role with Novartis, AstraZeneca (Inst.), KEW Group, Merck, Transgene, Clovis Oncology, Genentech, Lilly (Inst.), Chugai Pharma, Boehringer Ingelhelm and Amgen; Research Funding with Novartis; Patents, Royalties and Other Intellectual Property with royalties from Dana-Farber Cancer Institute; Expert Testimony with Genentech.
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