がんの転移

■ がんの転移とは何ですか?

がんが重篤になる主な理由は、がんが身体中に拡散することにあります。がん細胞は隣接する正常組織に移動することで局所転移します。がんはまた、隣接するリンパ節、組織、または臓器に局所転移することもできます。また、身体の遠隔部位に転移する能力もあります。こうしたがんを、転移がんと言い、多くのがん種ではIV(4)期と定義されています。がん細胞が身体の別の部位に拡がる過程を転移と言います。

顕微鏡下、かつ、その他の検査で調べられる転移がん細胞には原発がんと同様の特性があり、転移がんが見つかった部位の細胞とは異なります。だからこそ、医師は身体の別の部位から転移したがんであると言えるのです。

転移がんは原発がんと同じ名前をつけます。実際の例として、肺に転移した乳がんは転移性乳がんで、肺がんとはいいません。肺がんではなく、IV期乳がんとして治療します。

転移がんと診断されると、医師は原発部位を言い当てることができないこともあります。こうした種類のがんを原発不明がん(cancer of unknown primary origin:CUP)と言います。詳細はページCarcinoma of Unknown Primary(英語)を参照してください。

がんの既往歴がある人に発生する新たな原発がんを二次原発がんと言います。二次原発がんはまれです。がんの既往歴がある人に再度がんがみつかった場合、最初の原発がんの再発であることがほとんどです。

■ がんはどのように転移するのですか?

転移の過程で、がん細胞は最初に発生した身体の部位から別の部位に拡がります。

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【YouTube動画「がんの転移とは」(字幕版)をご覧ください】

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がん細胞は一連の段階を経て身体のあらゆる部位に転移します。これらの段階は以下の通りです。

  1. 隣接する正常組織の中に増殖、または浸潤していく。
  2. 隣接するリンパ節の壁や血管壁を通過する。
  3. リンパ系や血管系を通って、身体の別の部位に移動する。
  4. 遠隔部位の毛細血管に留まり、血管壁を浸潤し、周辺組織に遊走する。
  5. 周辺組織で増殖し、小腫瘍を形成する。
  6. 新たな血管を生じさせ、腫瘍の増殖を持続的に可能にする血液供給をもたらす。

ほとんどの場合、転移の過程にあるがん細胞は上記の段階のどこかの時点で死滅します。しかし、がん細胞にとってそれぞれの段階で好都合な条件が生じると、一部のものは身体の別の部位に新たな腫瘍を形成することができます。転移がん細胞は再び増殖し始めるまで長年もの間、遠隔部位で休眠したままでいることさえできます。

がんはどこに転移しますか?

がんは身体のほとんどあらゆる部位に転移できます。ただ、がんの種類により他の部位より特定の部位に転移しやすい部位の傾向があります。がん転移が好発する部位は骨、肝臓、および肺です。以下の表は、よくみられるがんにおいて、リンパ節以外に転移する好発部位を示しています。

転移の好発部位

がんの種類 主な転移部位
膀胱がん骨、肝臓、肺
乳がん骨、脳、肝臓、肺
結腸がん 肝臓、肺、腹膜
腎臓がん副腎、骨、脳、肝臓、肺
肺がん副腎、骨、脳、肝臓、対側の肺
悪性黒色腫 骨、脳、肝臓、肺、皮膚、筋肉
卵巣がん肝臓、肺、腹膜
膵臓がん肝臓、肺、腹膜
前立腺がん 副腎、骨、肝臓、肺
直腸がん肝臓、肺、腹膜
胃がん肝臓、肺、腹膜
甲状腺がん 骨、肝臓、肺
子宮体がん骨、肝臓、肺、腹膜、膣             

転移がんの症状

転移がんは必ずしも症状を引き起こすとは限りません。転移がんの症状が認められる場合、その種類や頻度は転移腫瘍の大きさや位置によって異なります。転移がんの一般的な徴候には以下のものがあります。

・骨転移時における疼痛と骨折。

・脳転移時における頭痛、痙攣、または浮動性めまい。

・肺転移時における息切れ。

・肝転移時における黄疸または腹部の腫脹。

転移がんに対する治療

がんは一度転移すると、その抑制は困難です。転移がんの一部は現在ある治療法で治癒可能とはいえ、大部分はそうではありません。たとえ治癒可能でなくても、すべての転移がん患者に対して治療はあります。こうした治療の目的はがんの増殖の停止あるいは抑制、またはがんが引き起こす症状の緩和です。転移がんに対する治療が生存期間を延長させることもあります。

治療法は、原発がんの種類、がんの転移部位、これまで受けてきた治療法、および全身健康状態によって異なります。臨床試験を含む治療選択肢に関しては、PDQ® がん情報要約[日本語版(がん情報サイト)]の治療(成人)[日本語訳]治療(小児)[日本語訳]でがん種を検索してください。

転移がんを制御できなくなったとき

転移がんを制御できないことがわかったら、患者と家族は終末期医療の話し合いをすべきです。がんの縮小または増殖の抑制を試みる治療の継続を選択した場合も、いつでもがんの症状や治療の副作用を抑えるための緩和ケアをうけることができます。終末期医療の対処方法や計画に関する情報は、Advanced Cancer(英語)をご覧ください。

現在進行中の試験

原発がん細胞や転移がん細胞の駆逐や、その増殖を抑制する新たな治療法が研究されています。こうした研究には、がんに対する免疫系の研究もあります。また、がん細胞の転移を可能にする過程を阻害する治療法の発見も試みられています。Metastatic Cancer Research(英語)にアクセスして、NCIが資金を提供している現在進行中の研究に関する情報を入手してください。

原文画像キャプション】<転移の際、がん細胞は最初に発生した部位(原発がん)から遊離し、血管系やリンパ系を遊走し、身体の別の部位に新たな腫瘍を形成する(転移性腫瘍)。転移腫瘍は原発腫瘍と同一の型の腫瘍である。

翻訳担当者 渡邊 岳

監修 廣田 裕(呼吸器外科、腫瘍学/とみます外科プライマリーケアクリニック)

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原文掲載日 

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