医薬品の承認と適応

Cancer.Netとは、米国臨床腫瘍学会(ASCO)の患者向けサイトです。
Research Advocacy > Introduction to Cancer Research

【リサーチアドボケート】(患者が研究を支援する)

がん研究への招待 はじめに―

[2016年1月、Cancer.Net Editorial Boardにより確認済み]

米国食品医薬品局(FDA)の主な役割は、米国内のすべての医療用および一般用医薬品(市販薬)の安全性と有効性を保証することです。監督対象には生物学的製剤も含まれます。生物学的製剤には、ワクチンや、血液および組織に由来する製剤も含まれます。FDA内には、新薬および生物学的製剤に関して行われた研究を審査する部署が2つあります。医薬品評価研究センター生物学的製剤評価研究センターです。この2つの部署が、こうした研究をもとにして、医薬品または生物学的製剤の使用承認の可否を判断します。

プロセスの改善
新薬の開発と承認には、時間がかかります。多くの医師と患者にとって、がんの新たな治療法の開発と承認は十分に迅速に行われているとはいえません。FDAは次のように、いくつかの方法によりこうしたプロセスの迅速化に努めています。

・新薬開発プロセスの初期の段階で、治験依頼者との面談を実施。早期の面談実施により、最善の臨床試験デザインを選択できるようになり、試験結果の審査の円滑化にもつながっています。

・欧州および日本との連携により、各国で承認済みの医薬品の米国における承認作業を効率化。日米EU医薬品規制調和国際会議(ICH) は、欧州、日本および米国の医薬品規制当局間による取り組みです。新薬承認に必要とされる項目を三者間で確実に整合性を持たせるために発足しました。

オーファンドラッグ(希少疾病用医薬品)法を活用し、希少疾病の治療薬となる新薬の開発への動機を治験依頼者に提供。この法律は、多くの種類のがんも対象となります。希少疾病用医薬品は、その国における患者数が200,000人未満の希少な疾病または病態を治療する医薬品です。

新薬の開発および承認の迅速化のためのFDAのプログラム
FDAは、次のようなプログラムを設け、新薬を患者に迅速に届けるよう努めています。

● ファスト・トラック(Fast Track)プログラム。FDAのファスト・トラックプログラムは、重篤な疾患あるいは生命にかかわる疾患における’治療開発の必要性(アンメット・メディカルニーズ)’医薬品の承認プロセスの迅速化に一役買っています。’治療開発の必要性’ある疾患の1例は、がんです。’治療開発の必要性’があるとは、疾患に対する治療法がない、または現在の治療法では疾患が治癒しないことを意味します。これに基づき、治験依頼者は、新薬の承認申請を行う際、ファスト・トラック承認を申請することができます。これにより、新薬承認申請(NDA)提出前の治験依頼者とFDAの相談実施が促進され、FDAの承認を遅らせるおそれのある、臨床試験デザインの選択やデータ提出に関する問題を回避しやすくなっています。ファスト・トラック承認の要件を満たす医薬品の大部分は、優先審査(Priority review)についても申請可能です(下記参照)。

● 画期的治療薬(Breakthrough therapy)プログラム。このFDAの指定は、重篤な疾患の治療薬に適用されます。臨床的に重要な評価項目が、既存の治療法と比較して実質的に改善したことを示す予備的な研究データに基づいて、指定への申請を行います。この指定により、試験の初期の段階での企業側とFDA担当者との面談実施が促され、開発および審査が迅速化されています。予備的データの審査後に、FDAが企業側に画期的治療薬指定への申請を提案する場合もあります。

● 迅速承認(Accelerated approval)プログラム。このFDAのプログラムは、重篤で生命にかかわる疾患の治療薬で、’治療開発の必要性’を満たす医薬品が対象です。迅速承認制度により、治験依頼者が「通常の評価項目」ではない試験結果に基づいた暫定承認を申請する方法が設けられました。この試験結果を「代替評価項目」といいます。代替評価項目は、その医薬品によってがんがどの程度治癒するかを示す間接的な指標です。例えば、腫瘍の縮小または臨床検査値の変化などが代替評価項目となりうるのです。承認後は、その医薬品が実際に効果を示すか否かを確認するため、治験依頼者は通常の評価項目を用いて臨床試験を行わなくてはなりません。治験依頼者は、それ以外にも臨床試験を行い、その医薬品の利益も確認しなければなりません。これらの試験で利益が確認されなければ、その適応に対する承認は取り消されます。

● 優先審査(Priority review)プログラム。この制度は、治療に大きな進歩をもたらす医薬品が対象です。現時点で適切な治療法がない病態の治療法となる医薬品も対象となります。しかし、治験依頼者が優先審査を申請できるのは、NDAを提出した後のみです。したがって、新薬の開発および試験期間は短縮されません。そのかわり、承認申請の提出から承認までの期間が短縮されます。

ファスト・トラック、画期的治療薬指定、迅速承認、優先審査の各プログラムに関する詳細はこちら(英語)をご参照ください。

必要とする患者への医薬品の提供
FDAの承認前の医薬品および試験段階にある医薬品を、治験薬といいます。多くの場合、治験薬は臨床試験(英語)に参加した患者だけが入手できます。

FDAによる医薬品の承認は、研究者らが臨床試験を完了し、データを分析した後に行われます。医薬品は、その医薬品の使用による効果が副作用のリスクを上回る場合に承認されます。FDAは、現在ある治療法をすべて試してきた患者が、より高いレベルのリスクを引き受けることをいとわない可能性を認識しています。FDAは、がんやその他重篤な疾患のある人々が治験薬を入手する機会を提供するプログラムを設けています。

治験薬を入手する機会を得るのに最適な方法は、臨床試験に参加することです。臨床試験には(厳格な規則である)適格基準が設けられており、その基準により患者の臨床試験への参加が制限される場合があります。しかし、拡大治験/コンパッショネート・ユース(温情措置)プログラムによって、なおも患者らが治験薬を手にすることが可能です(下記参照)。

連邦法では、製薬会社は、提供した治験薬の実費を患者に請求することが認められています。患者とその担当医は、治験薬を入手する前に費用について製薬会社と相談するべきです。大部分の保険会社は、こうした費用の請求について医師または患者に償還していません。この規制に関する詳細はこちら(英語)をご参照ください。

● 拡大治験/温情措置(expanded access/compassionate exemption)プログラム。患者は、製薬会社を通じて大規模あるいは中規模な拡大治験プログラムに参加することにより、治験薬を手にすることができます。希望する医薬品について製薬会社がプログラムを用意していない場合、患者または医師は個人患者向けの申請を行うことができます。この場合、医師が製薬会社に治験薬の提供を打診します。その後、医師は申請をFDAに提出し、FDAが個々の事例に応じてこの申請を審査します。FDAの拡大治験/温情措置プログラムの詳細はこちら(英語)をご参照ください。

● 個人患者向けIND(Individual Patient INDs)制度。FDAの個人患者向けの新薬治験許可申請(IND)制度により、患者一人に対して新薬入手機会を提供するよう、医師が申請を行うことが認められています。この場合、その患者はどの臨床試験の適格基準も満たさず、他に治療法がないことが条件です。その医薬品が有効である可能性があり、不当なリスクが存在しないことを示す十分なデータが必要です。

適応外使用
FDAが新薬の承認を行う際、添付文書に記載された用法について申請が行われている場合には、その医薬品の特定の病態(例えば、乳がんなど)への使用だけが承認されます。その後製薬会社は、他の種類のがんの治療などその医薬品の他の用法に関する研究を継続する場合もあります。医師は、FDAが承認した医薬品を添付文書に記載されていない病態の治療のために処方したり、添付文書に記載されていない用法で使用したりすることがあります。これを医薬品の適応外使用といいます。

がん治療では、医薬品の適応外使用は、さまざまな理由で一般的に行われています。第一に、FDAは特定の種類またはステージのがんの治療に限定して医薬品を承認することが多いためです。医薬品がFDAに承認された時点では、その医薬品の添付文書は過去に行われた研究を反映しているにすぎません。承認後に、他の種類のがんの治療に有効な使用方法を研究者らが同定する場合もあります。第二に、がん治療では多剤を併用することが多いためです。多剤を併用する場合、1種類または複数の種類の医薬品がしばしば適応外使用として用いられます。医師らは、患者のケアを改善するために新たな組み合わせを研究しており、多剤併用療法は絶えず変化を続けています。

メディケアおよび他の種類の医療保険は、有効性に関するデータが得られる場合には、一定の適応外使用を補償しています。医薬品の適応外使用の詳細はNCIによる情報(英語)をご参照ください。

FDAによる新たな添付文書記載事項の承認
承認済み医薬品の新たな用法や適応についてFDAの承認を得るためには、治験依頼者はFDAに対して追加的な販売申請を行わなければなりません。これを、医薬品承認事項変更申請(sNDA)といいます。sNDAを行うことで、その製品の新たな用法の安全性および有効性が確立されます。一部の例で、追加承認申請の提出時に必要なデータが新規承認時のものほど広範ではない場合もあります。

患者の参画
患者が医薬品の開発および承認プロセスに参加する最適な方法は臨床試験(リンク先は英語)に参加することです。臨床試験に参加した患者は、より良い治療を受けられるだけでなく、厳密に管理されたケアを受けることもできます。FDAは、開発および承認プロセスに患者を参加させるため、患者代表(Patient Representative)プログラムとよばれるプログラムを導入しました。このプログラムにより、がん患者はFDA諮問委員会の公開会議に患者として参加することが認められています。FDA諮問委員会が公開会議を行う目的は、患者とその家族の視点からみて重要な争点、問題点および疑問点についての理解を広めることです。

翻訳担当者 前田愛美

監修 石井一夫(ゲノム科学/東京農工大学)

原文を見る

原文掲載日 

【免責事項】
当サイトの記事は情報提供を目的として掲載しています。
翻訳内容や治療を特定の人に推奨または保証するものではありません。
ボランティア翻訳ならびに自動翻訳による誤訳により発生した結果について一切責任はとれません。
ご自身の疾患に適用されるかどうかは必ず主治医にご相談ください。

FDAニュースに関連する記事

米FDAが、非小細胞肺がんと膵臓腺がんにzenocutuzumab-zbcoを迅速承認の画像

米FDAが、非小細胞肺がんと膵臓腺がんにzenocutuzumab-zbcoを迅速承認

2024年12月4日、米国食品医薬品局は、以下の成人を対象にzenocutuzumab-zbco[ゼノクツズマブ-zbco](Bizengri[販売名:ビゼングリ]、Merus NV社...
米FDAが治療歴のある切除不能/転移性HER2陽性胆道がんにザニダタマブを迅速承認の画像

米FDAが治療歴のある切除不能/転移性HER2陽性胆道がんにザニダタマブを迅速承認

2024年11月20日、米国食品医薬品局(FDA)は、FDAが承認した検査でHER2陽性(IHC 3+)が検出され、治療歴のある切除不能または転移性の胆道がん(BTC)を対象に、zan...
米FDAが胃または胃食道接合部(GEJ)腺がんにゾルベツキシマブと化学療法の併用を承認の画像

米FDAが胃または胃食道接合部(GEJ)腺がんにゾルベツキシマブと化学療法の併用を承認

2024年10月18日、米国食品医薬品局(FDA)は、FDAが承認した検査によりクローディン18.2(CLDN18.2)陽性であると判定された、切除不能または転移性のヒト上皮成長因子受...
米FDAが、KMT2A転座を有する再発/難治性の急性白血病にレブメニブを承認の画像

米FDAが、KMT2A転座を有する再発/難治性の急性白血病にレブメニブを承認

有効性は、KMT2A転座を有する再発または難治性(R/R)急性白血病の成人および小児患者104人(生後30日以上)を対象とした非盲検多施設共同試験(SNDX-5613-0700、NCT0406...