アドバンス・ケア・プランニングへの取組みにも、終末期の積極的がん治療は減らず

要点

  • 委任状による代行権を認めることで、末期がん患者のうち病院で亡くなる患者の割合は減り、ホスピスや自宅で亡くなる患者の割合が増えた。しかし、治療を制限した患者の割合とは関連がなかった。
  • 質問調査の回答者のうち40%近くは、故人が自分たちと終末期ケアに対する希望について話し合わなかったと回答した。

ジョンズ・ホプキンスの専門家を中心とする研究者らは、がん患者の遺族を対象とした質問調査およそ2,000件を再調査し、アドバンス・ケア・プランニングの一つである、永久的委任状による近親者の代理人認定をおこなった患者数が12年の調査期間中に40%増加したことを明らかにした。しかしその増加にもかかわらず、亡くなる数週間前に積極的治療を受けた患者の割合に対し、増加分に応じるような影響はまったくみられなかった。

また研究者によると、永久的委任状を作成した患者数が大幅に増加したものの、調査回答者の40%近くが、故人は自分たちと終末期ケアに対する希望について話し合わなかったと答えた。

「医療に関する意思決定ができなくなったとき、その判断を委ねられる信頼できる近しい人に委任状の権限を認めるがん患者は増えていますが、この取り組みはアドバンス・ケア・プランニングの手法としてはほとんど役に立たないかもしれません。というのも、それは終末期の治療強度とまったく関係がない可能性があるからです」とジョンズ・ホプキンス病院放射線腫瘍学・分子放射線科学部門のレジデント、Amol Narang医師は言う。

研究者らの報告によると、リビング・ウィルの作成や終末期についての話し合いをおこなった患者では、終末期に特定の治療を制限したり中止したりする人の割合が、治療を制限しなかった人の2倍になった。一方、委任状を作成した患者では、ホスピスや自宅ではなく病院で亡くなった末期の患者の割合はたしかに減少したものの、治療を制限することとのあいだには関連がみられなかった。

本再調査の結果は、69日にJAMA Oncology誌電子版で発表された。

「依然として多くのがん患者が終末期ケアに対する希望について話し合っていないことがわかりました。患者のQOL(生活の質)と、ケアを提供する人が直面する死別に有益な可能性があるというのにです」とNarang医師は言う。

がん専門医や専門学会、そのほか医療関係の団体は、患者の容態が悪化した際の医療的な意思決定を円滑にするために、永久的委任状やリビング・ウィルの作成を推進してきたほか、医療従事者と患者、ケア提供者のあいだでの終末期についての話し合いを長いあいだサポートしてきた。専門家によると、その目標は患者の希望を理解することと、終末期が近づいてきたときの積極的治療の代わりになる選択肢について情報を提供することだという。



こうした取り組みがどの程度の割合でおこなわれ、終末期での無意味で望まれない積極的治療を減らすうえでどの程度効果があるのかを測定するために、Narang医師らは米国国立老化研究所の「高齢者の健康と退職に関する研究」で収集されたデータを選別した。現在も進行中の同研究では、20,000人を超す50歳以上の人たちの健康習慣や経済状況についての情報を収集している。同研究参加者のうち、1985人が2000年から2012年の間にがんにより死亡し、その研究参加者を知る人物に「事後」調査をおこなっている。回答者が患者の近親者だったことも珍しくはなかった。

事後調査への回答によると、患者の48%がリビング・ウィルを、58%が委任状を作成し、62%が終末期についての話し合いに加わっていた。調査期間の12年間にリビング・ウィルの作成と終末期についての話し合いをおこなった患者の割合に有意な変化はみられなかった。しかし、委任状を作成した患者の割合は、研究を開始した2000年から2012年までのあいだで54%から74%へと増加していた。

Narang
医師らはさらに、病院で亡くなった末期がん患者が、亡くなる数週間前から化学療法などの特定の治療を制限または中止したかどうか、また亡くなるまで「可能なかぎりの治療」を受けていたかどうかについての事後調査への回答を再調査した。再調査の結果によると、調査対象期間に病院で亡くなった患者の割合と治療を制限した患者の割合にまったく変化はみられなかったが、終末期に「可能なかぎりの治療」を受けた患者の割合は2000年の7%から2012年の58%へと増加していることがわかった。終末期の積極的治療は、アフリカ系アメリカ人およびヒスパニックでより広くみられた。

事後調査の回答者のうち79%は、自身を患者の医療的なケアに関して「第一位の」意思決定者であると答えた。回答者の続柄にかかわらず、回答には同じ傾向がみられることがわかった。

Narang
医師は同研究にいくつか限界がある点に注意を促す。この調査で用いられた質問が主観的なものであることと、回答者の記憶違いで回答が歪められている可能性があること、社会的な規範に合わせようとする回答者の願望によって答えにバイアスがかかっている可能性があることには、とくに気をつけてほしいと言う。「それでも、私たちは調査期間全体を通して傾向を見ていましたが、回答者のバイアスは時間とともに変化していないようでした」

Narang
医師によると、調査の結果からは「患者の終末期に対する希望について、患者およびケア提供者と話し合いをするよう臨床医を促す方法を考え出す」必要のあることがうかがえるという。

「今回得た知見によって、試みも新たに、きわめて重要な終末期についての話し合いを持つよう、医師や一般の人々を促せられたらと思っています」とNarang医師は語る。

本研究は、米国国立衛生研究所の米国国立老化研究所(K01AG041763)および米国国立癌研究所(K07CA166210)から資金提供を受けた。

Narang
医師のほか、本研究はジョンズ・ホプキンス・ブルームバーグ公衆衛学部のLauren Nicholas博士、ボストンのダナ・ファーバー癌研究所のAlexi Wright公衆衛生修士と共同でおこなわれた。

翻訳担当者 筧 貴行

監修 東 光久(腫瘍内科、緩和ケア/福島県立医科大学白河総合診療アカデミー)

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