推奨グレードの定義

米国予防医学専門委員会(USPSTF)

推奨グレード定義

米国予防医学専門委員会(U.S. Preventive Services Task Force, USPSTF)は、アルファベット5段階(A、B、C、DまたはI)で推奨グレードを割り当てている。USPSTFでは、2007年5月そして2012年7月に再度、手法の変更に基づいて推奨グレードの定義を変更し、その際に推奨グレードCの定義および診療の提言を更新した。

2012年7月~ 推奨グレード定義

各グレードの意味と診療への提言

USPSTFは、推奨グレードCの定義および診療における提言を更新した。この新定義は、2012年7月以降に投票が行われるUSPSTF推奨に適用される。検診の推奨の度合を示すことは、医療者やその他の利用者にその重要性を伝える大切な要素の一つである。各グレードの定義は大体どれもUSPSTF設置当初から更改されているが、もっとも顕著に変更されたのは推奨グレードCの定義であり、1998年以来3回大幅に変更されている。更新を重ねているとはいえ、グレードC推奨の本質は一貫性を保っている。すなわち、集団レベルでいえば、利益と不利益のバランスはほぼ拮抗しており、また純利益は小規模にとどまる。純利益が小さいため、USPSTFの推奨は「日常診療で」この医療サービスを提供することに「賛成とも反対とも」しない(1998年)か、「日常診療で」この医療サービスを提供することに「反対する」(2007年)か、または一部の個人に「選択的に」提供することを推奨する(2012年)とした。推奨グレードCは、個人の価値観や置かれた状況のわずかな違いを鋭敏に感受する。個人に医療サービスを提案ないしは提供すべきかどうかを決定するために、典型的には、臨床医と個人のあいだの情報提供を伴う対話が必須である。

推奨グレード

定義

診療への提言

A

USPSTFはこの医療手技を推奨している。高い確実性で十分な純利益がある。

この医療手技を提案ないしは提供する。

B

USPSTFはこの医療を推奨する。高い確実性で適度な純利益があるか、適度な確実性で適度または十分な純利益がある。

この医療を提案ないしは提供する。

C

USPSTFでは、専門家の判断と個人の選択に基づいて、個別にこの医療を提案ないしは提供することを推奨する。純利益が小さいことの確実性が、少なくとも適度にある。

この医療は、個人の状況により、特定の個人に対して選択的に提案ないしは提供する。

D

USPSTFはこの医療の提供を推奨しない。適度または高い確実性でこの医療には純利益がないか、不利益が利益より大きい。

この医療の使用をやめさせる。

I

USPSTFは、この医療手技の利益と不利益のバランスを評価するには現在の証拠は不十分であると結論づけている。証拠が不足しているか、低品質であるか、相反しており、利益と不利益のバランスを判断できない。

USPSTF推奨文の「臨床的検討事項」を参照。医療を提供する場合は、個人が利益と不利益のバランスに関する不確実性について理解しているべきである。

純利益に関する確実性のレベル

確実性レベル

説明

多くの場合、現在得られている証拠として、代表的プライマリケア人口集団を対象とした的確な設計および的確に実施された研究から得られた首尾一貫した結果がある。これらの研究では、健康上の帰結に対する予防医療の有効性が評価されている。このため、この結論は、将来の研究結果により強く影響される可能性は少ない

現在得られている証拠は、健康上の帰結に対する予防医療の有効性を判断するのに十分であるが、推定の信頼度は次のような要因によって制約される。
・それぞれの研究の回数、規模、または品質
・それぞれの研究間で結果が一致していない場合
・研究結果を日常的なプライマリケア診療に一般化するには制約がある場合
・一連の証拠間で統一性が欠如している場合
将来的にさらに多くの情報が追加されれば、観察された有効性の強度または方向性が変化し、結論が変更される可能性がある。

現在得られている証拠は、健康上の帰結への有効性を評価するには不十分である。次の理由による。
・研究の回数または規模が足りない
・ 研究の設計または手法に重大な瑕疵がある
・それぞれの研究間で一致していない
・一連の証拠の間にギャップがある
・日常的なプライマリケア診療への一般化ができない
・重要な健康上の帰結に関する情報が欠如している。
将来的に情報が追加されれば、健康上の帰結に関する有効性評価が可能になるかもしれない。

* USPSTFでは、「予防医療の純利益に関するUSPSTFの評価が正しいと推定」して確実性を定義している。純利益は、一般的なプライマリケア人口集団で実施される予防医療の利益から不利益を引いたものとして定義される。USPSTFでは、予防医療の純利益を評価するため、現在得られている全証拠を性質に基づいて確実性レベルを割り当てている。

===========================

2007年5月以降の推奨グレード定義

各グレードの意味と診療への提言

USPSTFは各推奨に割り当てる推奨グレードの定義を改定し、各グレードに紐づけられた「診療への提言」を追加した。USPSTFはまた、純利益について確実性のレベルを定義した。以下の定義は、2007年5月以降の投票によって決定したUSPSTF推奨に適用される。

推奨

グレード

定義

診療への提言

A

USPSTFはこの医療を推奨する。高い確実性で十分な純利益がある。

この医療を提案ないしは提供する。

B

USPSTFではこの医療を推奨する。高い確実性で適度な純利益があるか、適度な確実性で適度または十分な純利益がある。

この医療を提案ないしは提供する。

C

注:下の説明は改訂中である。臨床医は個人の状況に応じて、一定の個人に対してこの医療を提供してもよい。しかしながら、症状や徴候のないほとんどの個人に対してはこの医療による利益はわずかしかないとみられる。

他の考慮すべき事情により、個人に医療を提供することが支持された場合にのみ、この医療サービスを提供する。

D

USPSTFはこの医療提供を推奨しない。適度または高い確実性でこの医療には純利益がないか、不利益が利益より大きい。

この医療の使用をやめさせる。

I

USPSTFでは、この医療手技の利益と不利益のバランスを評価するには現在の証拠は不十分であると結論づけている。証拠が不足しているか、低品質であるか、相反しており、利益と不利益のバランスを判断できない。

USPSTF推奨文の「臨床的検討事項」を参照。この医療手技を提供する場合は、個人が利益と不利益のバランスに関する不確実性について理解しているべきである。

===========================

2007年5月までのグレード定義

改定前には、(USPSTF推奨グレードおよびエビデンスの質評価に関する)以下の定義が用いられていた。これは、2007年5月以前にUSPSTFが投票で決めた推奨に適用される。

A強く推奨: USPSTFは臨床医が〔この医療を〕適応がある個人に提供することを強く推奨する。USPSTFは、〔この医療が〕重要な健康改善につながる確固たる証拠を見出し、利益が不利益を相当上回ると結論づけている。

B推奨: USPSTFは、臨床医が〔この医療を〕適応がある個人に提供することを推奨している。USPSTFは、〔この医療が〕重要な健康改善につながる弱いエビデンス(良)を見出し、利益が不利益を上回ると結論づけている。

C推奨なし: USPSTFは、日常診療で〔この医療を〕提供することに賛成とも反対ともしない。USPSTFは、〔この医療が〕重要な健康上の帰結の改善につながることを示す弱いエビデンス(良)を見出した。しかし、利益と不利益のバランスがきわめて拮抗しているため、一般的に推奨するのを正当化することができないと結論づけている。

D反対: USPSTFは、自覚症状のない個人に対し、〔この医療を〕提供を推奨しない。USPSTFは、〔この医療が〕無効ないしは不利益が利益を上回ることを示す弱いエビデンス(良)を見出している。

I証拠不十分につき推奨不能: USPSTFは、日常診療で〔この医療を〕提供することに賛成ないしは反対するにはエビデンスが不十分であると結論づけている。この〔医療〕が有効であるというエビデンスが欠如しているか、証拠の質がよくないか、または賛否両論あり利益と不利益のバランスを判断することができない。

 エビデンスの質
USPSTFは、医療サービスを正当化する証拠全般の品質を優、良、不良の3段階で評価している。

優(Good): エビデンスとして、代表的な人口集団を対象として健康上の帰結に与える影響を直接的に評価するため、適切な設計で適切に実施された研究から得られた一貫した結果がある。

良(Fair):健康に与える影響を判断するための十分なエビデンスがある。しかし、研究の数、質、複数の研究間の一貫性、および日常診療の一般的な適用への可能性において、または健康上の帰結への影響を間接的に示すにとどまるという点で、証拠の強度には限界がある。

不良(Poor): 研究の数または検出力の限界、設計又は実施上の大きな欠陥、一連の証拠の一貫性を損なうギャップ、重要な健康上の帰結に関する情報不足などがあるため、健康上の帰結への影響を評価するにはエビデンスが不十分である。

翻訳担当者 盛井 有美子

監修 斎藤 博 (がん検診/国立がん研究センター がん予防・検診研究センター )

原文を見る

【免責事項】
当サイトの記事は情報提供を目的として掲載しています。
翻訳内容や治療を特定の人に推奨または保証するものではありません。
ボランティア翻訳ならびに自動翻訳による誤訳により発生した結果について一切責任はとれません。
ご自身の疾患に適用されるかどうかは必ず主治医にご相談ください。

がん検診に関連する記事

5種のがんで予防と検診が救命に大きく寄与の画像

5種のがんで予防と検診が救命に大きく寄与

がんの予防と検診の改善により、過去45年間で5種類のがんによる死亡が治療の進歩によるよりも多く回避されたことが、米国国立衛生研究所(NIH)の研究者が主導したモデル化研究で示された。2...
大腸がん検診におけるシールド・リキッドバイオプシーの位置づけは?の画像

大腸がん検診におけるシールド・リキッドバイオプシーの位置づけは?

7月、食品医薬品局(FDA)は、大腸がんの平均的リスクがある人の一次スクリーニングとして使用する初の血液検査を承認した。

シールド(Shield)と呼ばれるこの検査は、血液中に浮遊するD...
パンデミック後の新規がん診断件数、予想されたリバウンドはみられずの画像

パンデミック後の新規がん診断件数、予想されたリバウンドはみられず

概要米国国立衛生研究所(NIH)の研究によると、2021年のがん罹患傾向は、COVID-19パンデミック以前にほぼ戻った。しかし、検診やその他の医療が中断された2020年におけ...
子宮頸がん検診のHPV検査は、現行ガイドライン推奨よりも長間隔で安全の画像

子宮頸がん検診のHPV検査は、現行ガイドライン推奨よりも長間隔で安全

HPV検診で陰性の場合、推奨されている5年後ではなく、8年後の検査でも、標準的な細胞診検診と同程度であることが判明した。ヒトパピローマウイルス(HPV)検診の陰性判定から8年後...