CAR-T細胞療法は多発性骨髄腫の持続的な奏効をもたらす

・KarMMa試験において、数回の治療歴がある再発多発性骨髄腫患者の約75%でide-celによる奏効が認められた。
 ・奏効率と患者の生存期間が、このような多発性骨髄腫患者群の標準治療で達成される数値よりも優れていた。
 ・本試験の結果により、再発または抵抗性骨髄腫患者に対する治療のFDA承認申請が加速される。

多発性骨髄腫の治療における大きな進歩として、CAR-T細胞療法が、数回の治療歴がある再発患者に深く持続的な奏効をもたらすことが、国際的な臨床試験で明らかになった。

idecabtagene vicleucel(ide-cel)として知られる本治療法で参加者の約75%が奏効し、3分の1は完全奏効、すなわちがんの徴候がすべて消失したと、2021年2月24日にNew England Journal of Medicine誌のオンライン版に掲載された研究において主任研究者が報告している。研究者らによると、これらの奏効率と奏効期間は、再発を繰り返す患者において現在利用可能な治療法よりも有意に優れているという。

これらの結果に基づき、再発または治療抵抗性の骨髄腫患者に対する標準治療法としてのide-celの承認申請が米国食品医薬品局に提出された。2021年3月末までに承認の可否が決定される予定である。

「多発性骨髄腫の治療は数多くの進歩を遂げているにもかかわらず、再発がよくみられます。標準治療を受けても病状が悪化し続ける患者さんには、高い奏効率を示す治療選択肢が比較的少ないのです」と、本試験を主導したダナファーバーがん研究所のNikhil Munshi医師は述べている。「この試験の結果は、多発性骨髄腫の治療における真のターニングポイントとなります。私の30年間の骨髄腫治療の経験の中で、多発性骨髄腫患者さんにこれほど効果的な治療法は他に見たことがありません」と述べている。

多発性骨髄腫は、侵入してきた細菌に対する抗体を生成する白血球である形質細胞のがんである。米国では毎年約35,000人がこの疾患と診断されており、成人では2番目に多い血液がんである。アフリカ系アメリカ人の間では最もよくみられる血液がんである。

骨髄腫の標準治療には、免疫調節薬、プロテアソーム阻害薬(細胞内のタンパク質分解構造体の作用を阻害する)、抗CD38抗体の3種類の主要な治療法がある。これらの治療歴のある患者は、より良い治療を緊急に必要としている。

他のCAR-T細胞療法と同様に、ide-celでも、患者の免疫系T細胞を収集し、遺伝子組み換えを行い、がん細胞上のタンパク質の受容体を発現させるようにする。患者に再び注入されると、CAR-T細胞はがん細胞に付着し、がん細胞を破壊する。

ide-celの標的は、B細胞成熟抗原(BCMA)と呼ばれる骨髄腫細胞上のタンパク質である。BCMAは骨髄腫の治療標的としていくつかの利点があるとMunshi医師は説明する。すなわち、BCMAは、形質細胞上のみに発現し、特に形質細胞ががん化した骨髄腫細胞上に大量に発現する。骨髄腫細胞の増殖と生存に重要なシグナルを伝達し、骨髄腫のほぼすべての患者に発現している。

KarMMaと名付けられた第2相試験では、少なくとも3種類の治療歴のある活動性骨髄腫患者128人が、単回投与のide-celで治療された(患者ごとに異なる投与量で試験が行われた)。追跡期間中央値13.3カ月の時点で、73%の患者に奏効(測定可能ながんの縮小)が認められ、33%の患者には完全奏効以上が認められた。この後者の患者群では、79%で骨髄腫が検出されなかった。無増悪生存期間中央値(治療後に病状が悪化しなかった期間)は8~9カ月であった。治療後2年以上再発していない患者もいる。

これらの成績は、再発多発性骨髄腫の標準治療で達成される成績を上回るものである。セリネクソール(販売名:Xpovio)、パノビノスタット(販売名:Farydak)、イサツキシマブ(販売名:Sarclisa)などの薬剤は、奏効率が25~30%、無増悪生存期間が3~4カ月である。

治療で最もよくみられる副作用は、血球数減少とサイトカイン放出症候群である。サイトカイン放出症候群は、免疫系が集中的な炎症反応を起こすCAR-T細胞療法の後に頻繁に発生する。臨床医はこの症状に対して効果的な治療を開発している。

数回の治療歴がある多発性骨髄腫患者でのide-celの成功を受けて、研究者らは多発性骨髄腫の初期段階の患者を対象とする本治療法の試験を開始することになった。

この研究の共著者は以下のとおりである。Larry Anderson, Jr., MD, PhD, of University of Texas Southwestern Medical Center; Nina Shah, MD, of the University of California, San Francisco; Deepu Madduri, MD, of Icahn School of Medicine at Mount Sinai, New York; Jesús Berdeja, MD, of Sarah Cannon Research Institute and Tennessee Oncology, Nashville; Sagar Lonial, MD, of Emory School of Medicine, Atlanta; Noopur Raje, MD, of Massachusetts General Hospital; Yi Lin, MD, PhD, of Mayo Clinic, Rochester, Minn.; David Siegel, MD, PhD, of Hackensack University Medical Center, Hackensack, N.J.; Albert Oriol, MD, of Institut Josep Carreras and Institut Catala d’Oncologia, Hospital Germans Trias i Pujol, Badalona, Spain; Philippe Moreau, MD, of Centre Hospitalier Universitaire de Nantes, Nantes, France; Ibrahim Yakoub-Agha, MD, PhD, of Centre Hospitalier Universitaire de Lille, University of Lille, INSERM Unité 1286, Institute for Translational Research in Inflammation, Lille, France; Michel Delforge, MD, of University Hospital Leuven, Leuven, Belgium; Michele Cavo, MD, of “Seràgnoli” Institute of Hematology, Bologna University School of Medicine, Bologna, Italy; Hermann Einsele, MD, of University Hospital of Würzburg, Würzburg, Germany; Hartmut Goldschmidt, MD, of University Hospital Heidelberg, Germany; Katja Weisel, MD, of the University Medical Center Hamburg-Eppendorf, Hamburg, Germany; Alessandro Rambaldi, MD, of University of Milan, and Azienda Socio Sanitaria Territoriale Papa Giovanni XXIII, Bergamo, Italy; Donna Reece, MD, of Princess Margaret Cancer Centre, Toronto, Canada; Fabio Petrocca, MD, and Monica Massaro, MPH, of Bluebird Bio, Cambridge, Mass.; Jamie N. Connarn, PhD, Shari Kaiser, PhD, Payal Patel, PhD, Liping Huang, PhD, Timothy B. Campbell, MD, PhD, and Kristen Hege, MD, of Bristol Myers Squibb, Princeton, N.J.; and Jesús San-Miguel, MD, PhD, of Clinica Universidad de Navarra, Centro de Investigación Médica Aplicada, Instituto de Investigación Sanitaria de Navarra, Centro de Investigación Biomédica en Red de Cáncer, Navarra, Spain.

この研究は、Bluebird Bio社およびBristol Myers Squibb社から支援を受けた。

翻訳担当者 会津麻美

監修 喜安純一(血液内科・血液病理/飯塚病院 血液内科)

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