プロテアソーム阻害剤が有効な多発性骨髄腫患者を特定するタンパク

MDアンダーソンがんセンター ニュースリリース

テキサス大学MDアンダーソンがんセンター主導の研究によると、TJP1(tight junction protein 1)として知られる遺伝子は、ボルテゾミブなどのプロテアソーム阻害剤やその感受性を増加させる併用療法に最も有効な多発性骨髄腫患者を特定するのに役立つ可能性があるという。

多発性骨髄腫は、形質細胞(正常時には抗体産生や健全な免疫システムの維持に必要不可欠な骨髄中の白血球)ががん化したものであり、血液がんの中で2番目に多くみられる。

「プロテアソーム阻害剤は多発性骨髄腫の標準療法の基礎を形成しています。しかし、本治療に反応を示す可能性が高い患者を特定することが可能な、臨床的に妥当性が確認されたバイオマーカーは存在しません」と、chair ad interim of Lymphoma/Myeloma、研究責任者のRobert Orlowski医学博士は述べた。「われわれの知見から、プロテアソーム阻害剤がどの患者に最も有効で、どの患者に最も有効でないかを特定する初のバイオマーカーとしてTJP1を使用する論理的根拠が得られました」。

本研究チームの発見は4月28日付の電子版Cancer Cell誌にて発表される。

TJP1が多発性骨髄腫においてプロテアソーム阻害剤感受性のメディエーターとしての役割を果たすことはこれまで知られていなかった。Orlowski氏のグループにより、TJP1はEGFR,JAK1およびSTAT3を介したシグナル経路を調節することが示された。本知見により、TJP1の発現レベルが低い形質細胞はEGFR/JAK1/STAT3活性およびプロテアソーム含有量の両方が高いという仮説が支持された。

「そのため、これらの形質細胞はプロテアソーム阻害剤に対して抵抗性を示しました。さらに、骨髄腫に対するEGFRシグナルおよび細胞中のプロテアソームレベルの制御に対するSTAT3のこれまでに知られていなかった役割、ひいては細胞のタンパク分解能を明らかにしました」とOrlowski氏は述べた。

本チームにより、骨髄腫細胞においてTJP1の発現レベルが低い患者は、ボルテゾミブを用いた治療に反応したり、有益性を得る可能性が有意に少ないことが確認された。

「本研究により、EGFR阻害剤であるエルロチニブや、ルキソリチニブなどのJAK1阻害剤とボルテゾミブなどを用いた併用療法を提供することで、EGFR/JAK1/STAT3シグナル経路が活性化している患者のプロテアソーム阻害剤に対する抵抗性を克服するという、有望な将来の方針を突き止めることができました」。

本研究は多発性骨髄腫に関するMDアンダーソンのSPOREプログラム(Specialized Program of Research Excellence)の一環であり、かつ科学的発見の臨床応用を促進し、がんによる死亡を大きく減少させること目的とするMoon Shots Programの一部でもある。

MDアンダーソンの研究チームは以下のとおりである。Xing-Ding Zhang, Ph.D., Jatin Shah, M.D., Donna Weber, M.D., Elisabet Manasanch, M.D., Sheeba Thomas, M.D., Bing-Zong Li, M.D., Ph.D., Hui-Han Wang, M.D., Ph.D., Isere Kuiatse, Ph.D., Hua Wang, Ph.D., He Jin, Ph.D., Jin Yang, Ph.D., Zhi-Qiang Wang, Ph.D., Richard E. Davis, M.D. and Lin Yang, M.D., Ph.D., all of Lymphoma/Myeloma; Veerabhadran Baladandayuthapani, Ph.D. and Heather Lin, Ph.D., Biostatistics; and Jiexin Zhang, Ph.D. and Wencai Ma, Ph.D., Bioinformatics and Computational Biology.

他の参加施設は以下のとおりである。Soochow University, Xi’an Jiaotong University, the Singapore Institute of Molecular and Cell Biology, the Myeloma Institute for Research and Therapy, the Levine Cancer Institute, Cancer Research and Biostatistics, and Università Vita-Salute San Raffaele.

本研究は以下から資金提供を受けた。米国国立衛生研究所(P30 CA142509, P30 CA016672, P01 CA055819, UA10 CA032102, R01 CA184464 and CA194264),Jiangsu Higher Education Institutions and the National Natural Science Foundation of China (81272476), the Multiple Myeloma Research Foundation, the Italian Association for Cancer Research, Sophia and G.W. Brock, Dr. James R. Yates and Dr. Alba A. Ortiz, Dr. Jay R. Solomon, and the Diane & John Grace Multiple Myeloma Research Fund.

翻訳担当者 下野龍太郎

監修 野崎健司(血液腫瘍科/国立がん研究センター中央病院)

原文を見る

原文掲載日 

【免責事項】
当サイトの記事は情報提供を目的として掲載しています。
翻訳内容や治療を特定の人に推奨または保証するものではありません。
ボランティア翻訳ならびに自動翻訳による誤訳により発生した結果について一切責任はとれません。
ご自身の疾患に適用されるかどうかは必ず主治医にご相談ください。

骨髄腫に関連する記事

骨髄性悪性腫瘍の精密医療による治療:NIH臨床試験の画像

骨髄性悪性腫瘍の精密医療による治療:NIH臨床試験

国立衛生研究所 (NIH) は、急性骨髄性白血病 (AML) および骨髄異形成症候群 (MDS) 患者の腫瘍細胞における特定の遺伝子変化を標的とした治療薬の新たな組み合わせに関して、概...
NPM1変異を有する骨髄腫瘍では骨髄芽球の割合との相関は認められないの画像

NPM1変異を有する骨髄腫瘍では骨髄芽球の割合との相関は認められない

MDアンダーソンがんセンター骨髄芽球が20%未満のNPM1変異陽性骨髄腫瘍はまれであり、その分類には一貫性がない。Guillermo Montalban Bravo医師が主導した新しい...
【ASCO2024年次総会】多発性骨髄腫にベランタマブ マホドチン追加で進行・死亡リスク減の画像

【ASCO2024年次総会】多発性骨髄腫にベランタマブ マホドチン追加で進行・死亡リスク減

ASCOの見解(引用)(原文6月2日)「DREAMM-8試験から、再発または難治性多発性骨髄腫患者において、ファーストインクラスのBCMA標的抗体薬物複合体であるベランタマブ ...
再発難治性多発性骨髄腫にベランタマブ マホドチン3剤併用療法は新たな選択肢となるかの画像

再発難治性多発性骨髄腫にベランタマブ マホドチン3剤併用療法は新たな選択肢となるか

米国臨床腫瘍学会(ASCO)ASCO専門家の見解「多発性骨髄腫は 血液腫瘍の中では2 番目に多くみられ、再発と寛解を繰り返すのが特徴です。ダラツムマブ(販売名:ダラキューロ)、...