OncoLog 2014年5月号◆T細胞を改変し、B細胞性悪性腫瘍を治療する–Sleeping Beauty(眠れる森の美女)療法

MDアンダーソン OncoLog 2014年5月号(Volume 59 / Number 5)

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T細胞を改変し、B細胞性悪性腫瘍を治療する—Sleeping Beauty(眠れる森の美女)療法

患者自身の免疫系が癌細胞を見つけて破壊するのを助ける新規の手法によって、B細胞性のリンパ腫および白血病の患者の寛解期間を延ばすことができる可能性がある。

この手法は、Sleeping Beautyとして知られる遺伝子導入法を用いて、養子T細胞移植に用いるキメラ抗原受容体(CAR)を作製するもので、テキサス大学MDアンダーソンがんセンターの臨床試験で用いられている。

養子T細胞移植

養子T細胞移植は、リンパ腫および白血病の革新的な治療法である。この治療法は、病原体および細胞を異物または機能障害と認識するT細胞抗原受容体を改変することによって、患者またはドナーから採取したT細胞が癌細胞を特異的に標的とするようになるという理論に裏づけられている。改変T細胞は、副作用のリスクを最小限に抑えつつ、効果的に癌を排除できる可能性がある。

非改変のnative T細胞は、通常は癌細胞を攻撃しない。これが、癌細胞が患者の体内で生き残ることができるひとつの理由である。このため、養子T細胞移植を成功させるためには、T細胞の抗原受容体を何らかの方法で改変し、T細胞が確実に患者の癌細胞を標的にして死滅させるようにする必要がある。CARは、B細胞性悪性腫瘍では通常、B細胞特異的タンパク質であるCD19を標的にする。

CARの従来の作製方法では、ウイルスによるトランスフェクションを用いて、T細胞の抗原受容体を改変する。抗原受容体を改変したあと、CD19を発現する抗原提示細胞下でキメラT細胞を培養する。抗原提示細胞は、改変T細胞を刺激し、増殖させる。しかし、ウイルスを用いてCAR-T細胞を作製する従来の方法は、多くの場合、費用がかかる。

Sleeping Beauty法

しかし、最近、小児科教授Laurence Cooper医学博士のチームが、患者のCARを作製するのに、ウイルスを使わず、それほど費用もかからない方法を開発した。この手法はSleeping Beauty(眠れる森の美女)と呼ばれる。なぜなら、この手法が、何百万年も前に脊椎動物の最後の共通祖先に存在したトランスポゾン(ゲノムの中でその位置を移動することができるDNA塩基配列)を再構築したものに依存しているためである。再構築されたトランスポゾンシステムを用いると、ウイルスベクターを使用せずに宿主のゲノム内にDNAを組み入れることができる。

このシステムで、医師らは、CD19などの腫瘍特異的な抗原またはマーカーを明らかにし、それを用いて、患者の癌に特異的なCARを含むDNA構築物を作製する。その配列は、Sleeping Beautyに特異的なDNAプラスミドに挿入される。そのDNAをT細胞に導入する際は、ウイルスの代わりに電気穿孔法を用いてT細胞の細胞膜を一時的に壊し、T細胞にSleeping BeautyのDNAを取り込ませる。

臨床への応用

養子T細胞移植療法は、一般に、リンパ腫または白血病の治療が終了してから実施される。通常、患者のT細胞はリンパ腫または白血病の治療が始まる前に採取する。患者の疾患の特性によって、化学療法、免疫療法、分子標的療法などが実施され、その後、残存病変の制御を図るために、造血幹細胞移植が行われることもある。

このような治療と並行して、CAR構築物が作製され、事前に採取した患者のT細胞に導入される。CARが組み込まれたT細胞は、治療が終了し、患者の状態が安定した時点で、患者に投与される。幹細胞移植科准教授Partow Kebriaei医師は「移植後のCAR-T細胞投与では、微小残存病変を標的とし、高リスクのB細胞性悪性腫瘍患者の寛解維持を目指します」と話す。

幹細胞または臍帯血の移植を受けたB細胞性悪性腫瘍患者に、Sleeping Beautyを用いて得られたCAR-T細胞を投与する試験が3件、MDアンダーソンで初めてヒトを対象に実施され、Kebriaei医師は、そのうちの2件の試験責任医師である。Kebriaei医師らは、昨年12月の米国血液学会年次総会で、25人の患者のCAR-T細胞を作製し、9人に投与したことを報告した。5人が急性リンパ性白血病、4人が非ホジキンリンパ腫であった。CAR-T細胞が寛解維持に効果があるかどうかを論じるには時期尚早であったものの、この療法が良好な忍容性を示したことが報告された。

将来に向けて

Cooper医学博士は、MDアンダーソンの研究者や臨床医らによって、B細胞性悪性腫瘍患者を対象に、化学療法終了直後にCAR-T細胞療法を実施する臨床試験が開始されたと話す。試験責任医師は、幹細胞移植および細胞療法科教授Chitra Hosing医師である。

現在実施されているCAR-T細胞療法の試験はいずれも、改変T細胞の生体内生存期間に注目している。Kebriaei医師によれば、今後、CAR-T細胞の持続時間が改善されれば、養子T細胞移植はいずれ、重大な副作用の恐れがあり高額な費用がかかる幹細胞移植に取って代わるものになる可能性があると言う。

MDアンダーソンの研究者らは、CAR-T細胞を用いた治療が、成人患者に比べて概して治療の選択肢の少ない小児リンパ腫で、治療の新たな選択肢になるのではないかと期待している。Cooper医学博士は「製薬会社の多くが、投資への見返りが見込めないために、小児リンパ腫に関心を寄せることができない経済状況にあります。しかし、CAR-T細胞には、この立場の弱い患者集団の治療薬となる可能性があるのです」。

— Zach Bohannan

【上段画像キャプション訳】
「移植後のCAR-T細胞投与は、微小残存病変を標的とし、高リスクのB細胞性悪性腫瘍患者の寛解維持を目指します」– Partow Kebriaei医師

【下段画像キャプション訳】
「製薬会社の多くが、小児リンパ腫に関心を寄せることができない経済状況にあります…しかし、CAR-T細胞には、この立場の弱い患者集団の治療薬となる可能性があるのです」– Laurence Cooper医学博士

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翻訳担当者 中村幸子

監修 大野 智(腫瘍免疫学、補完代替医療/帝京大学・東京女子医科大学)

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