ホジキンリンパ腫の治療による胃癌発生リスクの可能性
米国国立がん研究所(NCI)プレスリリース
原文掲載日 :2013年8月26日
NIH(米国国立衛生研究所)の一部門であるNCI(米国国立癌研究所)の研究者らの試験から、ある種の放射線治療および化学療法を受けたホジキンリンパ腫の生存者は、その後胃癌を発症するリスクが高いことが明らかとなった。本試験はJournal of Clinical Oncology誌の2013年8月26日号に掲載された。
ホジキンリンパ腫は免疫系に発生する癌で、米国では青少年や若者に最も多くみられる癌の一つである。さまざまな種類の化学療法および標的を絞った放射線療法などホジキンリンパ腫の治療法の進歩はすばらしく、生存率は改善されている。NCIのSEERプログラムのデータ分析によると、1975年~1977年のホジキンリンパ腫の5年生存率は72%、2003年~2009年は88%であった。
ホジキンリンパ腫の治癒率は高いが、乳癌、肺癌、胃癌など二次性悪性腫瘍を発症するリスクがある。過去の試験においてホジキンリンパ腫の放射線療法および化学療法と胃癌リスクの関連が指摘されているが、これらの試験では対象範囲に限りがあった。ホジキンリンパ腫の治療と胃癌リスクの関係についてより明確にするため、NCI癌疫学・遺伝学部門(DCEG)のLindsay M. Morton博士らはオランダ、デンマーク、フィンランド、ノルウェー、スウェーデン、米国およびカナダのデータを解析した。この解析では、1953年~2003年にホジキンリンパ腫と診断された生存者約2万人が対象となった。
調査したホジキンリンパ腫患者17,477人のうち、89人の生存者がその後胃癌を発症したことがわかった。研究者らは患者の診療記録から治療に関する詳細な情報を収集し、ホジキンリンパ腫生存者の胃に照射された放射線量および使用された化学療法の種類と用量を算出した。胃癌を発症した生存者が受けた治療と胃癌を発症しなかった生存者が受けた治療を比較し、ホジキンリンパ腫治療後の胃癌発症リスクを同定することができた。
解析の結果から、胃癌リスクは胃に照射された放射線量の増加とともに増加することが示された。放射線量が最も高かった患者における胃癌リスクは、放射線量が最も低かった患者と比較して3倍近く高かった。また、放射線によるリスクは、DNA損傷の原因となることが知られているアルキル化薬に属するプロカルバジンの投与を受けた生存者においてさらに高かった。胃癌のリスクは、放射線量とプロカルバジンの投与量に大きく依存していた。本試験は、化学療法と放射線療法がその後の胃癌リスクに強く影響することを示した最初の試験である。
また、試験から、今日ホジキンリンパ腫の治療で多く用いられている同様のアルキル化薬であるダカルバジンの投与を受けた患者においても、胃癌リスクは増加することが示唆された。しかし、本試験ではダカルバジン投与を受けた患者が少なかったため、この結果についてはさらなる調査が必要である。本試験で評価したその他のアルキル化薬と胃癌リスクの増加に関連性はみられなかった。
「胃癌は稀ではあるがホジキンリンパ腫治療後に遅れて発症する重要な有害事象であるという懸念が高まる中で、われわれの試験は強力な裏づけとなる」とMorton博士は述べた。また、「ホジキンリンパ腫の患者は一般に20代から30代に治療を受けるため、彼らの多くは50歳前に胃癌を発症する。つまり、今まで癌を発症したことがない患者が新規に診断される年齢より20年近く早く診断されることが特徴的である。これらの生存者を追跡する臨床医は、消化管に関連する患者の愁訴に注意する必要がある」と語った。
この研究はNCI Intramural Research Programの支援を受け、NCIが発行した契約書に基づき実施された。
図:胃腺癌の細胞を示す組織サンプル
参照文献:Morton LM, Dores GM, et al. Stomach cancer risk after treatment for Hodgkin lymphoma.JCO. August 26, 2013. DOI: 10.1200/JCO.2013.50.6832
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