2012/07/24号◆特別リポート「一部の前立腺癌男性では経過観察と手術での予後は同等」
NCI Cancer Bulletin2012年7月24日号(Volume 9 / Number 15)
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◇◆◇ 特別リポート ◇◆◇
一部の前立腺癌男性では経過観察と手術での予後は同等
先週New England Journal of Medicine(NEJM)誌で発表された待望の臨床試験結果によれば、早期前立腺癌と診断された男性の多くは根治的前立腺摘除術をしなくとも、即時手術を受けた男性と同じくらい長く生存できる可能性がある。
PIVOTと呼ばれる試験の結果は、昨年の米国泌尿器科学会(AUA)年次総会で初めて発表された。しかし、多くの研究者や臨床医が、試験の詳細を精査しその試験結果が臨床にどれくらい影響するかを推し量るため、その発表論文を確認したいと切望していた。
その試験は1994年から2002年まで行われ、ちょうどその頃前立腺特異抗原(PSA)による前立腺癌の検診が普及し始めていた。試験では、731人の男性(年齢中央値67歳)がPSA検査結果と生検に基づき限局性前立腺癌と診断された。それから、根治的前立腺全摘除術群あるいは経過観察群(「注意深い経過観察:watchful waiting」と呼ばれることもある)のいずれかに無作為に割りつけられた。
全体的にみて、15年(中央値10年)にわたる追跡調査後、何らかの原因により死亡した男性の割合は両群で同程度で、手術群の47%に対し経過観察群では49.9%であり、統計学的な有意差はなかった。前立腺癌による死亡リスクの絶対差はほぼ同等(5.8%に対し8.4%)で、同じく統計学的に有意ではなかった。
しかし、PSA値が10 ng/mL以上だった手術群男性では、前立腺癌を含む全死因リスクが低かったことがデータから示唆された、とミネソタ州ミネアポリスの退役軍人慢性疾患アウトカムリサーチセンターのDr. Timothy Wilt氏らは報告した。癌進展に関して中リスクもしくは高リスクの男性でも、統計学的に有意ではないが同じような傾向がみられた。
「われわれの発見により、限局性前立腺癌と診断を受けた患者の大半、特に低PSA値または低リスク癌の患者にとって、経過観察、そしておそらくはPSA監視療法を支持する証拠が加えられた」と彼らは記述した。
NCIの癌予防部門長であるDr. Barry Kramer氏は、その試験について「必ずしも決定的なものではない」と述べた。しかしその結果について、患者が選択肢を検討する際に「意思決定の過程に取り入れることができる重要な発見」と続けた。
Kramer氏は、PSA値が10 ng/mL以上または高リスク癌の男性に手術での利点が示されたというサブセット解析の結果から過剰に推定することに対し、注意を促した。試験の総合結果が統計学的に有意でない場合、一部の集団での解析において「結果は変動しやすく矛盾する場合がある」と述べ、「そういった知見を解釈する際は慎重にならなければいけない」と続けた。
NEJM誌中の付随論説で、テキサス大学健康科学センターのDr.Ian Thompson氏とフレッド・ハッチンソンがん研究センターのDr.Catherine Tangen氏は、試験規模が結果に影響する可能性がある、と主張した。 PIVOT試験は当初2,000人を登録するよう計画されたが、患者の募集が困難であったため計画は変更となった。両氏は、結局手術が死亡率を減少させるかどうかを示すために必要な統計学的検出力を持つには患者数が不十分であった、と述べた。
手術を受けた低リスク癌患者に死亡リスクの減少は見られなかったという結果は、PSA監視療法について行われた他の研究と一致しており、低リスク患者においては「このアプローチを強く支持する」と論説は続けた。「それに対し、高グレードで悪性度の高い前立腺癌は、治療せずにいると通常致死的な経過をたどる」とThompson氏およびTangen氏は述べた。「癌による死亡リスクが最も高く、治療の利益が最大に見込まれ、われわれが効果的に治療をしなければならないのは、そういった患者なのだ」。
PIVOT試験では手術と経過観察(watchful waiting)が比較されたが、経過観察よりもPSA監視療法(active surveillance)の方がより一般的に使われているアプローチであろう。多くの癌センターはPSA監視療法のプログラムを確立している、とニューヨークにあるスローンケタリング記念がんセンターのDr.Ethan Basch氏は述べた。同氏は、、米国臨床腫瘍学会(ASCO)に招集され、PIVOT試験の結果が公表される2日前に前立腺癌のPSA検診に関する勧告を発表した小委員会の議長を務めた。(下記の枠囲み記事を参照)
前立腺癌について「入手可能な全データを組み合わせれば、検診戦略のビジョンが一つにまとまってきます」と、Basch氏は述べた。PSA検診を選び、中グレードあるいは高グレードの癌と診断された若年患者は可能な治療法について話し合い、低グレードの癌と診断された患者はサーベイランスプログラムに参加するようになるだろう、と続けた。
「そうなることにより、多くの男性にとってリスク・ベネフィット比は大きく差が出てくる可能性もあります」とBasch氏は述べた。つまり有害リスクは低下しつつ利益を受ける可能性が高まるということである。しかし、そういった戦略は臨床試験で前向きに検証する必要がある、と警告した。
— Carmen Phillips
本研究の一部は、米国国立衛生研究所の支援を受けている。
参考記事:「一部の前立腺癌男性では監視療法の方が好ましい」
その他のジャーナル記事: ASCOがPSA検診に関する臨床的見解を公表米国臨床腫瘍学会(ASCO)により招集された専門委員会は、平均余命が10年未満の前立腺癌男性にはPSA検診を行わないよう忠告し、医師は、平均余命が10年以上の男性に対するPSA検査で起こり得る利点とリスクについて話し合いをすべきだと推奨した。その勧告は、暫定的な臨床的見解としてJournal of Clinical Oncology誌7月16日号に掲載された。この臨床的見解は医療研究・品質局による文献再調査に大いに基づいていたのだが、それは米国予防医療作業部会(USPSTF)によるPSA検査についての新しい勧告で、日常的なPSA検診をしないよう忠告するものであった。USPSTFと同様に、ASCOの委員会は2つの大規模ランダム化臨床試験(前立腺癌・肺癌・大腸癌・卵巣癌スクリーニング試験とヨーロッパにおける前立腺癌検診に関するランダム化試験)からの最新知見を再評価した。 「平均余命が長い若年患者ではPSA健診により有意義な利点が得られる可能性はありますが、利点と損害との兼ね合いが必要、と結論づけました」とBasch氏は述べた。「それらのバランスは個人の価値観と優先度によるので、われわれは、信頼性の高い明確な情報により証拠を説明することで(検診についての)決定が為されるよう推奨しました」。 ASCOは、PSA検査についての話し合いを円滑化するために、医師が患者と共に利用でき、理解しやすい言葉で書かれた意思決定支援ツールも公開した。 |
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佐々木亜衣子 訳
榎本 裕(泌尿器科/東京大学医学部付属病院) 監修
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