前立腺癌検診:米国予防医学専門委員会による推奨内容案
米国予防医学専門委員会(USPSTF)
推奨内容案
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注)この勧告声明案は、米国予防医学専門委員会(USPSTF)による最終的な勧告ではない。この案は発表前のレビューのみを目的として配信されている。米国医療研究品質局(AHRQ)によって配信されたものではない。AHRQの決定事項あるいは政策を代表するものではなく、また代表すると解釈されてはならない。
この勧告声明案は、2011年10月7日に発表されたエビデンスレビューに基づくものである。 リンクを参照
USPSTFは、症状や徴候がない患者に対する特定の臨床的予防医療の効果についての推奨の策定を行っている。
この勧告は、医療による利益と害の両方におけるエビデンス、およびそのバランス評価を基にしている。USPSTFはこの評価において医療を提供する費用については考慮しない。
USPSTFは、臨床的決定にはエビデンス単独より熟考に重きが置かれることを認識している。臨床医はエビデンスを理解すべきであるが、特定の患者あるいは状況において個別に決定を下すべきである。USPSTFは同様に、政策や健康保険の保証範囲の決定には臨床的ベネフィットや弊害に関するエビデンスに加え、熟慮が必要だと述べている。
この勧告声明案に対するコメントを2011年10月11日から2011年11月8日(5:00 pm ET)まで受け付けている。コメントする前に勧告声明案すべてに目を通すこと。
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前立腺癌検診:米国予防医学専門委員会による推奨内容案
推奨グレードのまとめとエビデンス
米国予防医学専門委員会(USPSTF)は、前立腺特異抗原(PSA)に基づき前立腺癌検診を行うことを推奨しない。これはグレードDの勧告である。
この勧告は、年齢、人種あるいは家族歴にかかわらず前立腺癌の疑いが高いとされる症状を持たない米国に住む男性に適用するものである。前立腺癌の疑いが高いとされる症状を持つ男性において、PSA検査を診断手法の一部として使用することに関して、作業部会は評価を行わなかった。この勧告はまた、前立腺癌の診断後の追跡検査または前立腺癌の治療のためのPSA検査の利用を考慮に入れていない。
根拠
重要性
前立腺癌は、米国の男性においてもっとも多く診断される非皮膚癌で、この癌と診断される生涯リスクは現在のところ推定15.9%である。前立腺癌の多くのケースでは予後が良好だが病状が早く進行するものもあり、前立腺癌で死亡する生涯リスクは2.8%である。前立腺癌が50歳より早く発生するのは稀で、60歳より前にこの癌で死亡する男性はほとんどいない。前立腺癌による死亡例の大多数は75歳以上である(1)。
癌の検出
現在行われている前立腺癌スクリーニングに対する推奨にはすべて血清PSA値の測定が組み入れられている。その他の検出方法では直腸指診または超音波診断などが含まれる場合もある。エビデンスによるとPSAに基づくスクリーニングプログラムは、無症候性の前立腺癌を多く検出する結果となったとされている。またPSAスクリーニングにより無症候性の癌が検出された男性の大多数は組織学的に前立腺癌の範囲に入る腫瘍があるが、その腫瘍は進行しないかあるいは緩慢性で成長も遅いため、その男性の寿命に影響を及ぼしたり健康に対する有害事象を引き起こしたりすることはなく、他の原因により先に死亡するであろうというエビデンスが有力である。こういった状況の両方を表すのに「過剰診断」あるいは「偽の病」という用語が用いられる。いかなるスクリーニングや治療計画に関しても過剰診断の規模を正確に量るのは困難である。前立腺癌の過剰診断の割合は、生検を受ける男性の数が増加するに従い上昇する。スクリーニングを受けた集団で検出されうる癌の件数は多い。PSAスクリーニングの対象となる男性でPSA値に関係なく生検を受けたある研究では、25%近くの男性で癌が検出された(2)。過剰診断の割合はまた診断が下される年齢によって左右される。余命が短い高齢の男性における癌の診断は過剰診断になる可能性が高い。
検出と早期介入の利点
前立腺癌スクリーニングの主要目的は前立腺癌による死亡を減少させることであり、作業部会が評価した全ての前立腺癌スクリーニング試験で検討された主要評価項目は、前立腺癌による死亡あるいは全ての死亡率の両方を減少させることであった。エビデンスによると、70歳以上の男性にとって検診は死亡率に関連する利益はないとしている。50歳から69歳までの男性の場合、検診の10年後の前立腺癌による死亡率の減少はわずかであるか全くないというエビデンスが有力である。検診により検出される癌は3種類のうちのひとつに分類される。すなわち、早期診断と治療にかかわらず死亡となる癌、早期診断と治療が生存率を向上させることとなる癌、そして緩慢に進行する腫瘍のため検診を行わなくても転帰が良好な癌である。PSA検診で癌が検出され12年間追跡調査が行われた男性の95%は、根治的な治療を行わなかった場合でも前立腺癌で死亡することはなかった(3)。前立腺癌の臨床的検出を待つよりPSA検診で検出される男性のほうが癌により死亡することが少ないという可能性は非常に低く、潜在的利益を得るまでには長い時間がかかる。前立腺癌単独または他のスクリーニング試験と組み合わせた前立腺癌検診試験、あるいは検診により検出された癌の治療に関する試験によって、全死亡率を減少させることを証明できたものはなかった。
検出および早期介入による害
検診に関連する不利益
有力なエビデンスによるとPSA検査は頻繁に偽陽性結果を生み出す(カットオフポイントを2.5-4.0ng/mLに設定した場合PSA検査陽性例の約80%が偽陽性である)ことが示されている(4)。PSA検査偽陽性は、前立腺癌に対する永続的な不安といった否定的な心理的影響と関連するものであるという十分なエビデンスがある。偽陽性結果を受けた男性は、結果が陰性であった男性より翌年中に生検といった追加検査を受けることが多い(5)。PSAの閾値および用いられる検査の間隔によって異なるが、10年の間に約15%-20%の男性が生検のきっかけとなる異常検査結果を受けるであろう(4)。前立腺の生検は、一部の男性(生検10,000件につき68件)で発熱、感染症、出血および一時的な排尿困難および痛みの原因となるというエビデンスが有力である(6,7)。
またPSAに基づく検診は、前立腺癌の大幅な過剰診断につながるというエビデンスも有力である。上記で述べたように腫瘍の病理学的特徴にかかわらずその腫瘍が男性の生涯で病的状態を引き起こしたり死亡の原因となるまで進行しない場合に過剰診断が発生する。過剰診断が前立腺癌において特に懸念されるというのは、患者は高確率で診断時に治療を受けるため、緩慢性の疾患である患者は、まさにその病気の性質により、何の利益を得ることもなく、治療にかかわる害をこおむることになる。
USPSTFはこれらの検診に関する不利益の程度は少なくとも小さいものと見なした。
検診で検出された癌の治療に関連する不利益
PSA値検査によって前立腺癌が検出された男性のほぼ90%が、外科手術、放射線あるいはアンドロゲン除去療法といった早期治療を受けているという十分なエビデンスが示されている。また1000人中最大5人の男性が前立腺癌手術の後1ヶ月以内に死亡し、10人から70人の男性が重篤な合併症が起きるというエビデンスも示されている。放射線治療と外科手術は、これらの治療を受けた患者1000人中少なくとも200から300人において、尿失禁および勃起機能不全といった有害事象の原因となっている。放射線治療はまた腸管機能不全とも関連がある(6,8)。
米国食品医薬品局(FDA)が承認した適応症ではなく、また限局性前立腺癌の臨床的転帰を改善することが示されていないにもかかわらず、特に高齢男性に対して早期前立腺癌治療にアンドロゲン除去療法を用いる臨床医もいる。限局性前立腺癌に対するアンドロゲン除去療法は、女性化乳房やホットフラッシュと同様に勃起機能不全(治療を受けた男性1000人中400人)を引き起こすということが十分なエビデンスにより示されている。さらに、進行した前立腺癌の治療でアンドロゲン除去療法を受けた患者では、心筋梗塞と冠動脈疾患、糖尿病、骨折といったその他の重篤な有害事象のリスクが上昇していることを示すエビデンスもいくつかある。しかしながら、これらの有害事象は限局性前立腺癌に対して治療を受けた患者においては十分研究されていない(6、8)。
前立腺癌PSA検診により、検診を行わなかった場合の発生数より多くの癌診断が下されて癌治療を行う結果となった。よって、検診の結果より多くの男性が治療関連の有害事象を経験する結果となった。検診により増加する癌の相当数は過剰診断を意味する。過剰診断された男性は、介入から利益を得ることができないばかりか外科手術、放射線またはホルモン療法による関連リスクのすべてをこうむることになる。このように、過剰治療は現在利用されているPSA検診の重大な結末を意味するものであり、もっとも特筆すべきは、ほとんどの場合医師と患者が検診で検出された癌の治療をすることを選ぶ傾向が強い点である。検診で検出された癌がのちに症状が現れた時点で癌と確認されることになったとしても、大多数の患者は同じ転帰になるため、さらに長期間治療による害を受けることになる(3、9)。PSA値を基にした前立腺癌検診は相当な過剰治療に終わるというエビデンスが有力である。
USPSTFはこれらの治療関連の不利益の規模は中程度以上であるとみなした。
USPSTFによる評価
前立腺癌PSA検診は寿命を延ばすという一般的な見解は科学的根拠により裏受けられない。2件の最も大規模な臨床試験で検診が及ぼす可能性のある厳密な影響について残る疑問に焦点が当てられ、利益が存在するとしても10年間ではそれは非常に小さいものとなるということが証明された。ヨーロッパの臨床試験では、50歳から74歳までの男性における前立腺癌による死亡率が減少したのは統計的に有意でない0.06%という数字で、米国では統計的に有意でない0.03%の増加という数字であった(10)。同時に疾患状態や死亡を引き起こすまで進行しない前立腺癌に対する過剰診断および過剰治療は、PSA検診の結果頻繁に起こるものである。米国では現在90%の男性が通常外科手術か放射線治療によりPSAベースで検出された癌治療を行っているが、治療を受けた男性の大多数で治療によって前立腺癌による死亡が回避できたりあるいは寿命が延びたりすることはないが、著しい不利益をこうむることになるのである。
USPSTFは、前立腺癌PSAスクリーニングによる不利益は利益を上回る中程度の確実性があると結論づけた。
臨床的な考察
考察対象となる患者群
この推奨内容は、一般的な米国男性に当てはまるものである。加齢は、前立腺癌発症の最も大きなリスク要因である。しかし、加齢によるリスク上昇にはPSA検診の有益性と悪影響のより好ましい形でのバランスを伴わない。いずれの年齢層でも、前立腺癌の発症および死亡リスクは、他に比べてアフリカ系米国人男性および前立腺癌の家族歴のある男性においてより高い。しかし、実際に観察された人種/民族あるいは家族歴によるリスクの差は、加齢に伴うリスクの差と比較すると小さく(1)、またPSA検診の純粋な有益性が人種や家族歴により異なることを示しているデータはない。
USPSTFは、前立腺癌の疑いが高いとされる症状を持つ男性においては、PSA検査を診断手法の一部として使用することに関して評価を行わなかった。この推奨はまた、前立腺癌の診断後の追跡検査または前立腺癌の治療のためにPSA検査を利用することは考慮に入れていない。
検診
50~74才男性のPSA検診について、5つの独自のランダム化比較試験において評価がされている。ランダム化試験では、直腸指診あるいは経直腸的超音波断層法などその他の検診方法とあわせて、単回あるいは間隔をあけた複数回PSA検査をさまざまなPSAカットオフ値および検診間隔で行った。(4, 11-14)。それらすべての試験で、参加男性全員において前立腺癌死亡率に対する統計的に有意な有益性はみられず、ほとんどにおいて検診を受けた群に不利益があった傾向が示されている。2つのメタ分析でも、前立腺癌死亡率あるいは全死亡率に対するPSA検診の有益性は示されていない(10, 15)。
米国の前立腺癌・肺癌・大腸癌および卵巣癌スクリーニング試験(U.S. Prostate, Lung, Colorectal, and Ovarian Cancer Screening Trial:PLCO)では、中央値11.5年のフォローアップにおいて、検診群の前立腺癌死亡率に統計学的に有意ではない上昇があり、11年を超えるフォローアップにおいても非検診群の方が一貫してよりよい結果であることが示された(11)。
2つの大規模試験の結果を考察すると、PSAスクリーニングの効果は、10年後の前立腺癌による死亡の0.03%の絶対リスク増加から0.06%の絶対リスク減少の範囲であろう(6, 7)。直腸診のみのように、PSA試験が含まれていないスクリーニング検査あるいはプログラムについては、現在のところ比較対照試験において十分な評価が行われていない。
治療
PSAによって検出された前立腺癌に対する初期治療法には、待機療法(症状緩和とあわせた観察および検診)、PSA監視療法(PSA検査、検診、および反復的な前立腺生検による定期的なモニタリング)を行い、疾患の進行あるいは予後の悪化の徴候があった場合には根治可能性のある治療に転換すること、そして外科手術あるいは放射線治療がある(17)。この限局性疾患に対して何が最適な治療であるかについては意見が一致していない。このPSAによる検診が導入される前に比べると、恐らく新たに約100万人の米国男性が1986年から2005年にかけて外科手術、放射線治療、あるいはその両方を受けた(18)。
北欧前立腺癌グループ(Scandinavian Prostate Cancer Group:SPCG)―4試験では、臨床的に発見された限局性前立腺癌の外科的処置によって、フォローアップ12~15年時における前立腺癌による死亡率および全死亡率に6%の絶対的減少があった。その利益は65歳未満の男性に限られていたようである(9)。前立腺癌の治療対観察の比較試験(Prostate Cancer Intervention Versus Observation Trial:PIVOT)の予備所見では、PSA時代の初期に限局性前立腺癌と診断された男性において、経過観察した場合の12年後の前立腺癌特異的死亡率と全死因死亡率は、前立腺全摘除術群(ITT解析)と比較して統計学的に有意な差はなく、その絶対差は3%未満であった(3)。
前立腺全摘除術から30日以内に最大0.5%の男性が死亡し、3%~7%の男性に外科手術による重篤な合併症が生じる。待機療法を選択した男性に比べると、前立腺全摘除術を受けた患者のさらに20%~30%あるいはそれ以上が1~10年後に勃起不全、尿失禁のいずれかまたは両方を経験する。放射線治療もまた、勃起、腸、および膀胱の機能不全の上昇を伴う(6, 8)。
その他の考察
実施
目標患者群に対する悪影響が有益性を上回ることからUSPSTFはスクリーニング検査の活用を薦めていないが、今日においてもPSA検診が実際には広く行われていることをUSPSTFは認識しており、今後も検診を希望する男性がおり、検診を提供する医師がいることをUSPSTFは理解している。有益な効果は少ないとしても、検診および検診で発見された癌の治療に伴った既知の悪影響、特に過剰診断あるいは過剰治療よりも、その効果の可能性を重要視するために、個々に検診を受けることを選択する人もいるかもしれない。この決定は十分な情報を得たうえでの決定であるべきで、望ましくはかかりつけの医療提供者と相談して決めるべきである。いかなる者に対しても、十分な理解および同意なく検診を行うべきではない。地域単位あるいは雇用者ベースの検診で、十分な情報が与えられたうえでの選択の自由がない検診はやめるべきである。
研究の必要性および不足していること
前立腺癌スクリーニングの有益性と悪影響のバランスには過剰診断および過剰治療が大きく影響を与えていることから、過剰診断および過剰治療の発生を減らすための方法を特定するために、異常値とするPSAの閾値あるいは生検を検討するPSA閾値の変更による偽陽性率あるいは緩徐進行性疾患の発見に与える影響の評価を含めた研究が必要である。同様に、新しいスクリーニング方法により、緩徐進行性疾患と臨床的に進行する可能性のある疾患との識別精度を改善し、そうすることで治療をせずとも予後が良好である疾患に対して生検およびその後の治療を求められる患者の数を減らさなければならない。スクリーニングで発見された前立腺癌に対する迅速な治療と観察後時間をおいてからの治療の間の長期的な有益性および悪影響を比較するためにも研究が必要である。これについては、PIVOT試験(19)および英国前立腺癌検査および治療に関する試験(20)の2つのランダム化比較試験が進行中である。PIVOT試験の予備結果は、生検を推奨するPSA閾値、および生検後に前立腺癌との診断を受けた男性患者の治療を決定するためのPSA閾値を上げることを支持するものであろう。
高齢者の死亡原因を正確に解明することは時に難しく、そのため、全死亡率に対する前立腺癌の影響を無視して前立腺癌特異的死亡率に基づく臨床的な推奨基準をつくっても、検診および治療プログラムの健康への影響およびその目標を完全にとらえることができないかもしれない。臨床試験において転帰を評価する妥当な手段として前立腺癌特異的死亡率の信頼度を適切に評価・改善することに加え、全死亡率をどのように併せて利用することがベストであるのかについてもさらなる研究が必要である。
5α-リダクターゼ阻害薬(フィナステリド、デュタステリド)の2つの大規模ランダム化比較試験で、これらの薬物によって、定期的なPSA検査を受けている男性患者が前立腺癌と診断されるリスクが減ることが示されている。しかし、認められた減少は低悪性度前立腺癌(グリソンスコア<6)のみの発生減少によるものである。FDAは、前立腺癌予防目的においてフィナステリドおよびデュタステリドを承認しておらず、その目的において、これら薬物のリスクと利益のプロファイルが好ましくないと結論付けている。FDAは、性欲減退および勃起不全を含む関連する副作用を引き合いに出しているが、最も重要なことは、両試験において対照群と比較してフィナステりドおよびデュタステリド群に割りつけられた男性患者において高悪性度前立腺癌の発生が絶対的に上昇した(21)ことである。これらの薬物と高悪性度前立腺癌との関係をさらに理解し、前立腺癌死亡率への5α-リダクターゼ阻害薬(あるいはその他予防の可能性のある薬物)の影響を判断するため、また前立腺癌予防が有益である可能性のある男性集団を特定するために、さらなる研究が有用だろう。
<考察>
疾病の負担
米国では2010年には、217,730人の男性が前立腺癌であるとの診断を受け、32,050人の男性がこの疾病で死亡している(22)と推定されている。診断の平均年齢は67歳であり、2003年から2007年までの前立腺癌による死亡年齢の中央値は80歳であった。前立腺癌で死亡した男性の71%が75歳を超えている(1)。アフリカ系アメリカ人男性の前立腺癌罹患率は、白人男性よりも大幅に高く(100,000人あたり231.9人対146.3人)、前立腺癌による死亡率も2倍を超えている(それぞれ100,000人あたり56.3人対23.6人)(22)。
前立腺癌は、臨床的に不均一な疾病である。解剖調査では、年齢40~60歳の男性の3分の1が組織学的に明らかな前立腺癌を有している(23)。そしてこの割合は、85 歳を超える男性では、4分の3にまで増加する(24)。 これらの症例のほとんどは、顕微鏡的な、高分化度の病変で、それらには臨床的な重要性はあまりない。臨床的な重要性があまりない病変の検出数は、PSA試験の頻度が増えたり、異常な結果であることを示す閾値を低く設定したり、および診断過程で採取する生検コア数を増やしたりすることによって増加している。
レビューの範囲
2008年にUSPSTFにより実施された前回のエビデンスアップデートは、75歳より若い男性に関する前立腺癌特異的死亡率および全死亡率を含めて、前立腺癌のスクリーニングにより健康に関わる結果が向上したというエビデンスが不十分であることを見出した。USPSTFは、75歳以上の男性の場合スクリーニングで検出された前立腺癌を治療する利益はわずかあるいは全くないという妥当な証拠があり、スクリーニングおよび治療の害は潜在的なあらゆる利益より大きいとしている(25)。2つの大規模な前立腺癌スクリーニングのランダム化比較試験で得られた初期死亡率の結果が公表された後で、USPSTFは、PSAに基づく前立腺癌スクリーニングの利益に関する直接の証拠について、目標を絞ったアップデートを実施すべきと判断した(7)。さらにUSPSTFは、限局性前立腺癌の治療の利益と害に関する、別の系統的なレビューも要請している(8)。
スクリーニングの精度
4.0 ng/mLという従来のPSAカットオフ・ポイントを使用することで、多くの前立腺癌の症例が検出されるが、一部の症例は見過ごされるおそれがある。カットオフ・ポイントをより低く設定することで、癌の症例がより多く検出されるが、これはより多くの男性に癌のおそれのラベルを張るということと引き替えになる。たとえば、PSAカットオフ・ポイントを2.5 ng/mLに下げることで、異常があると判断される40~69歳のアメリカ人男性の数は2倍以上になるが(26)、それらの大多数は偽陽性であろう。また臨床的に重要でない緩徐進行性の腫瘍を検出する可能性も増加する。逆に、PSAカットオフ・ポイントを10.0 ng/mL以上に上昇させた場合、異常があると判定される50~69歳の男性の数は約120万人からおよそ352,000人に減少するだろう(26)。前立腺癌がないということを保証できるPSAカットオフ・ポイントは存在しない(27)。
前立腺癌のスクリーニング試験の精度を評価するために、針生検結果を参照標準として使用することには、内在的な問題がある。生検の検出率は、1回の手順で実施された生検の数によって異なる。つまり実施する生検本数が多くなればなるほど、検出される癌の症例が増加する。「飽和」生検法(生検コア20本以上)では、より多くの癌の症例が検出され、PSA高値の特異性を見かけ上増加させる傾向にある。しかしながら、この方法で検出された癌の症例の多くは、臨床的に重要でない可能性が高い。このため、臨床的に重要な前立腺癌症例を検出するために必要なPSA試験の精度は、精確には決定できない。
PSA検診の変更が臨床的に重要な前立腺癌症例の検出を向上するために提案されてきた。それらは、年齢調整PSAカットオフ・ポイント、フリーPSA、およびPSA密度、PSA増加速度、PSAスロープ、およびPSA倍加時間などである。しかしながら、これらの試験戦略のいずれも健康上の結果を向上させたという証拠はないし、いくつかは有害であった可能性すらある。ある調査では、他の生検適応がない場合に、PSA増加速度を利用すると、7人に1人の割合で生検を実施することになったが、検査の精度は向上していないことが分かった(28)。
早期検出および治療の効果
1980年代にスウェーデンで開始された2つの低品質なランダム化比較試験では、それぞれ検診を実施したグループで、 前立腺癌死亡の統計的に有意でない増加傾向が示されている(13、14)。カナダで実施された第3の低品質な試験では、検診意図分析を使用したとき、同様の結果が示されている(12)。これらの試験のスクリーニングプロトコルは多様であるが、すべてが直腸指診や経直腸超音波検査法に加えて、カットオフ・ポイントを3.0~10.0 ng/mLにした、1回以上のPSA検査を含んでいる。
PLCO試験の前立腺コンポーネントでは、55~74歳の男性76,693人を6年間毎年のPSA検診(および4年間の直腸指診)または通常診療にランダム化している。ここでは、4.0 ng/mLのPSAカットオフ・ポイントを使用していた。スクリーニング試験陽性に対する診断フォローアップおよび治療選択は、参加者およびそのかかりつけ医師によって行われ、前立腺癌であるという診断を受けた男性の90%が積極的な治療(手術、放射線治療やホルモン療法)を受けている。7年後(完全フォローアップ)、検診されたグループでは、前立腺癌死亡率に統計的に有意でない増加傾向が現れている(rate ratio[RR] 1.14[95%信頼区間0.75-1.70])。同様の所見が10年後にも観察されている。この調査への主な批判は高い汚染率に関係している。研究者は特に検診間隔とフォローアップの期間の両方を延長して、汚染の影響を対償しようと試みているものの、対照群の男性の約50%が、調査中に少なくとも1回のPSA試験を受けていた。試験参加前のPSA試験の履歴によって分類されたサブグループ分析では、前立腺癌死亡に対する影響は現れていなかったが、試験参加前の3年間に参加者の約40%がPSA試験を受けていた(11)。
ERSPC試験では、ヨーロッパ7カ国の50~74歳の182,000人の男性を2~7年ごとのPSA試験または通常の診療にランダム化している。PSAカットオフ・ポイントは、調査センターによって異なり2.5~4.0 ng/mLである(センターの1つでは数年間10.0 ng/mLのカットオフ・ポイントを使用していた)。前立腺癌であると診断された男性の66パーセントが、手術、放射線治療、ホルモン療法、または何らかの組み合わせで、すぐに治療を受けることを選択した。9年の中間フォローアップのあと、参加した全男性で、前立腺癌の死亡率について統計学的に有意な差はなかった(RR、0.85 [95% CI, 0.73 to 1.00])。55~69歳の男性に限定した事前に決められたサブグループ分析では、前立腺癌による死亡率で統計学的に有意な減少が現れている(RR、0.80 [95% CI, 0.65–0.98])。サブグループ分析では、スクリーニングされた50~54歳および70~74歳の男性で、前立腺癌による死亡率に有意でない増加傾向が示されている。55~69歳の男性のサブグループに関して観察された前立腺癌による死亡率の差は、約9年(試験のフォローアップ期間の中央値)で初めて発生しているため、さらにフォローアップすることで、影響の規模が変化(増加または消滅)する可能性がある。研究者たちは、1人の前立腺癌による死を避けるために、1,410人の男性に検診の必要があり、さらに48人の男性に治療する必要があると見積もっている(4)。この調査に対する主な批判は、調査センターの間で用いられた年齢要件、検診間隔、PSA閾値、および登録手順に関する首尾一貫性のなさに関係している。また分析で2つの調査センターで得られたデータを除外したことも批判されている。また調査およびコントロール群の間で治療に差があることで、結果に影響があった可能性があることも憂慮されている。注意点として、検診群の男性は、対照群の男性よりも大学で治療されていた可能性が高く、高リスクの前立腺癌に罹患していた対照群の男性は、検診群よりも根治的前立腺全摘除術の代わりに、放射線療法、待機療法、またはホルモン療法を受ける可能性が高かった(29)。
ERSPC結果の発表後に、その試験内の1つのセンター(スウェーデン、ヨーテボリ(Göteborg))から個別にデータが報告されている。このセンターでは、50~64歳の20,000人の男性が、2年ごとのPSA検診または通常の診療にランダム化されている。フォローアップ期間中央値は14年であった。3.0 ng/mLのPSAカットオフ・ポイントが当初使用されていたが、2.5 ng/mLに引き下げられている。検診群で、前立腺癌であると診断された参加者の中で、58パーセントは即時治療を選択している。検診群における前立腺癌による死亡率比は0.56(95% CI, 0.39–0.82)であり、絶対リスク低減は0.34% (16)であった。このセンターの参加者の60%の結果は、完全なERSPCによる発表の一部としてすでに報告されているが、死亡率比は他のどの個別の調査センターについても公表されていないため、コンテキストの中でこれらの知見を解釈することがいくぶん困難になっている。全体的なERSPCの発表にある分析では、すべての参加国の中で、スウェーデンが総合的な前立腺癌死亡率低減予測でもっとも良好な効果を示しており、スウェーデンでの知見を除外したときの「コア」集団について全体的な調査結果は、もはや統計的に有意ではなかった(4)。他に個別の結果を公表したセンターはなかった。
2つのメタ解析では、PSAベースの検診を実施した男性と対照群の間には、前立腺癌死亡率(RR、0.88 [95% CI, 0.71–1.09]および0.95 [95% CI, 0.85–1.07])または全死亡率(RR、0.99 [95% CI, 0.98–1.01]および1.00 [95% CI, 0.98–1.02])で、統計学的に有意な差は見られなかった(10、15)。
待機療法による前立腺癌治療を比較するランダム化比較試験は少ない。限局性前立腺癌男性695人のランダム化比較試験(SPCG-4)では、15年のフォローアップの後で、待機療法に対して、根治的前立腺全摘除術を実施した患者で、遠隔転移のリスクについて11.7%(95% CI, 4.8–18.6)の絶対的減少が報告されている。前立腺癌死亡率(6.1% [95% CI, 0.2–12])の絶対的低減および全死亡率の低下傾向(6.6% [95% CI, −1.3から14.5])も、この期間全体で観察されている。サブグループ分析では、前立腺全摘除術の利益はより若い(65歳未満)男性に限定されている可能性があることが示唆されているが、PSA値が10未満およびグリーソン・スコアが6以下の男性にも見られている。さらに、根治的前立腺全摘除術によりホルモン療法の使用が23.8%減少している。こららの所見をPSAベースの検診で検出された癌へ適用できる可能性は限定的である。何らかの形式の検診で前立腺癌であると診断された患者は、参加者のわずか5%だけであり、88%は触診可能な腫瘍があり、40%以上の参加者は症状が現れて受診していたためである(9、30)。
PIVOT試験の予備的結果が公表されている。PIVOT試験は、PSA試験が広く普及し始めた後に検出された前立腺癌の男性を対象に、アメリカ合衆国内で実施されている。この試験は、75歳以下(平均年齢は67歳)でPSA値が50 ng/mL未満(平均PSA値は10 ng/mL)で、臨床的に限局性の前立腺癌がある731人の男性を、根治的前立腺全摘除術と待機療法にランダム化している。参加者の3分の1がアフリカ系アメリカ人であった。PSA値、グリーソン・スコア、および腫瘍病期(Tステージ)に基づくと、約43%が低リスク腫瘍であり、 36%が中間リスクの腫瘍、また21%が高リスク腫瘍であった。中央値10年のフォローアップの後で、手術で治療された男性と経過観察を行った男性の間で、前立腺癌特異的または全死亡率で統計学的に有意な差はなかった(絶対リスク低減、それぞれ2.7% [95% CI, −1.3 to 6.2]および2.9% [95% CI, −4.1 to 10.3])。サブグループ分析では、前立腺癌および全死亡率の両方で、根治的前立腺全摘除術の効果は、患者の特徴(年齢、人種、健康状態および合併疾患、または グリーソン・スコアを含む)によって変化しないが、PSA値およびおそらくは腫瘍リスクカテゴリによって変化することが分かった。診断時PSA値が10 ng/mL以上の根治的前立腺全摘除群の男性では、前立腺癌特異的および全死亡率について、それぞれ待機療法群の男性と比較して、絶対的リスク低減が7.2%(95% CI, 0.0–14.8)および13.2%(95% CI, 0.9–24.9)であった。しかしながら、PSA値が10 ng/mL以下または低リスク腫瘍の根治的前立腺全摘除群の男性の場合は、前立腺癌特異的または全死亡率の低減はなく、待機療法群と比較したとき、害の増加が示唆される可能性(統計的に有意でない)があった(3)。
スクリーニングおよび治療の害
PSA試験結果が偽陽性になることは一般的だが、PSA カットオフ・ポイントおよび検診の頻度によって異なる。4回のPSA試験のあと、PLCOのスクリーニング群の男性には、少なくとも1回偽陽性結果を受ける累積リスクが12.9%あり(PSA >4.0 ng/mLであり、3年後に前立腺癌でないと診断されるものとして定義)、偽陽性結果のために少なくとも1回生検を実施するリスクが5.5%あった(31)。PSA試験結果が偽陽性となった男性は、試験後最長1年間、対照群の参加者と比較して、前立腺癌に関して心配することがより多くなり、前立腺癌のリスクをより多く意識し、性的機能に関して問題を報告する可能性が高くなる(32)。偽陽性のPSA試験結果を受けた男性に関するある調査では、生検で中程度から激しい痛みを経験したと26%が報告している。偽陽性の結果を受けた男性はPSA試験を繰り返し受けることが多く、初回生検が陰性であっても12カ月以内に追加の生検も受けることが多い(33)。
ERSPC試験のロッテルダムセンターから報告された前立腺生検の害には、長期にわたる血精液症(50.4%)、血尿(22.6%)、発熱(3.5%)、尿閉(0.4%)、および前立腺炎または尿路由来敗血症(0.5%)の徴候による入院がある(34)。痛みおよび不快感も、前立腺生検に関係して発生する。その範囲は幅広く、使用された「痛み/不快感」の定義、麻酔の使用、採取した生検コアの本数(サンプルをより多く採取することは、より激しい痛みにつながるとみられる)、および患者の年齢(若い男性は高齢男性よりも、より激しい痛みとより多い痛みの頻度を報告している)によって、4分の1程度から90%以上の男性となっている(35)。
PSA試験の特異性の低さ及び、急速進行性の腫瘍を緩徐進行性の腫瘍から区別できないことから、多くの男性が前立腺癌と過剰診断されてしまう。ERSPC試験の推計から、PSA試験で検出された前立腺癌の症例で48%~67%の過剰診断率が示唆される(36、37)。これらの男性は、なんら関連する治療から利益を得られないにも関わらず、やはり与えられた療法の害にさらされるので過剰診断は特に憂慮される。エビデンスによると、PSA試験で臨床的に限局性前立腺癌と診断された男性の90%近くで、主に根治的前立腺全摘除術および放射線療法という、早期の治療が行われていることが示されている。
根治的前立腺全摘除術では、待機療法と比較して、1から10年後に尿失禁の絶対リスクが20%増加し、勃起機能障害の絶対リスクが30%増加する(すなわち、それぞれ中央値6%に対して20%の増加、および中央値45%に対して30%の増加)。周術期の死亡または心血管事象は、患者の約0.5%および0.6%~3%に発生する(6、8)。さまざまな外科的手技を使用した結果に関する比較データは限られているが、U.S. Surveillance, Epidemiology, and End Results (SEER)およびMedicareにリンクさせたデータを用いたある集団ベースの観察コホート調査では、恥骨後式前立腺全摘時術よりも、低侵襲前立腺全摘除術/ロボット補助下根治的前立腺全摘除術が泌尿生殖器合併症、失禁および勃起機能障害のリスクが高いことが分かっている(38)。
放射線療法は、待機療法と比較して1から10 年で、勃起機能障害リスクで17%の絶対増加に関係しており(すなわち、50%の中央値に対して17%の増加)、腸管機能障害のリスク増加にも関係している。この影響は治療後の最初の数カ月間で最も顕著である(6、8)。
限局性前立腺癌は、アンドロゲン除去療法に関してFDA承認の適応症ではなく、局所疾病でこの治療を受けた高齢者の臨床転帰は、保存的に管理された者よりも悪い(39)。アンドロゲン除去療法は、待機療法と比較して勃起機能障害のリスクが増加(絶対リスクの差は45%)し、またホットフラッシュおよび女性化乳房などの全身性影響も発生する(6、8)。進行前立腺癌の場合は、アンドロゲン除去療法で、糖尿病、心筋梗塞、または冠動脈疾患などの他の深刻な害が発生するおそれがある。しかしながら、これらの影響は、限局性前立腺癌に対して治療を受けた男性では、十分に調査されていない。
純利益の程度の推計
11年のフォローアップでPSAベースの検診の使用による全死亡率減少を示す試験は存在しない。ほとんどのランダム化試験では、PSA 試験の使用により前立腺癌による死亡率の低減を示すことに失敗しており、PLCO試験を含むいくつかの試験では、おそらくは過剰診断および過剰治療に関連する疾病により、スクリーニングされた男性でリスクの増加が示唆されている。事前に計画されたERSPC試験の55から69歳男性のサブグループの解析では、中央値9年のフォローアップ後に、小さな前立腺癌による死亡の絶対低下(0.07%)が観察されている。参加した全男性(50~74歳)を分析に含めたとき、統計学的に有意な影響は見られなかった。PSAベースの検診による何らかの潜在的な癌特異的死亡率に関する利益が現れるまでの期間が長く(少なくとも9~10 年)、前立腺癌の男性のほとんどが前立腺癌以外の原因で死亡するため(40)、PSAスクリーニングで前立腺癌であると診断された男性でも、検診の結果として、前立腺癌による死亡を防止できたり、寿命を延長できた者は非常に少なかったであろう。
前立腺癌でのPSAベースのスクリーニングの害には、偽陽性結果の比率の高さ、およびそれに付随するネガティブな心理的影響、診断的生検に関連する合併症、および最も重要なこととして、過剰治療をともなう過剰診断のリスクが含まれる。採用した治療法により、前立腺癌の治療には、死亡、心血管事象、尿失禁、勃起機能障害、および腸管機能障害のリスクをともなう。
PSAベースの前立腺癌検診による10年間での死亡率に関する利益は非常に小さいかあるいは全くない。その一方で、害は中程度または重大である。このため、USPSTFでは、ランダム化比較試験で利用され調査されている、前立腺癌でのPSAベースの検診には純利益がないと適度の確実性をもって結論づけている。
生物学理解とエビデンスはどの程度合致しているか
現在アメリカ合衆国で実施されているPSAベースの検診およびその後の治療では、無症候性の前立腺癌症例の大多数が究極的に臨床的に重大になり、不良な健康状態につながるということを前提にしている。しかしながら、限局性前立腺癌を保存的に管理した男性に対する長期的な人口ベースのコホート調査では、この仮説は支持されていない。Connecticut Tumor Registryのレビューは、PSA時代以前に開始されているが、男性(診断時年齢の中央値は69歳)の前立腺癌による死亡の長期的確率を調査している。それら男性の腫瘍はほとんどが良性前立腺肥大症の経尿道的切除術または切開手術時に偶然診断されたものである。男性たちは、観察だけにとどめたか、または早期または後になってからアンドロゲン除去療法を受けている。15年のフォローアップの後で、前立腺癌による死亡の全体リスクは、1000人・年あたり18死亡例であった。高分化型前立腺癌の男性の場合では、1,000 人・年あたり6人の死亡例であり、前立腺癌以外の原因で死亡した男性の方がはるかに多い(75%に対して7%) (41)。PSAベースの検診を大規模に導入した後のSEERデータベースの分析では、初期の根治的治療法を試みなかった限局性前立腺癌の男性の死亡リスクを検査している。診断時66~69歳の男性の場合、高から中分化型腫瘍に関して10年間の前立腺癌による死亡率は、腫瘍の段階によって異なり0%~7%であるが、他の原因による死亡率は0%~22%であった。前立腺癌と比較して他の原因による死亡の相対比率は、前立腺癌診断時の 年齢によって大幅に増加している(42)。
以前のUSPSTF勧告の更新
この勧告は2008年の推奨グレードを更新するものである(25)。USPSTFでは、以前75歳以上の男性で前立腺癌に関するPSAベースの検診について反対する勧告を行っており、より若年男性について勧告を行うには証拠が不十分であると結論付けていたが、今回USPSTFは全年齢グループに関して前立腺癌に関するPSAベースの検診に対して推奨しないこととする。
その他の推奨
American Urological Associationでは、PSAスクリーニングを40歳以上の男性に実施すべきであると推奨している(43)。アメリカ癌協会(American Cancer Society:ACS)では前立腺癌について次のように、情報を得た上での意思決定の重要性を強調している。平均的なリスクのある男性は、50歳から情報を得るべきであり、一方アフリカ系アメリカ人男性または前立腺癌の家族歴のある男性は45歳で情報を得るべきである(44)。American College of Physicians (45)およびAmerican College of Preventive Medicine (46)では、50歳以上の男性に対してPSA検診の利益と不利益の可能性について臨床医が議論し、患者の意思を考慮して検診に関する決定を個別に配慮することを推奨する。
付録 U.S. Preventive Services Task Force
この推奨が起草された時点でのU.S. Preventive Services Task Force*のメンバーは次の通りである。
Virginia A. Moyer, MD, MPH, Chair (Baylor College of Medicine, Houston, Texas); Michael L. LeFevre, MD, MSPH, Co-Vice Chair (University of Missouri School of Medicine, Columbia, Missouri); Albert L. Siu, MD, MSPH, Co-Vice Chair (Mount Sinai School of Medicine, New York, New York); Kirsten Bibbins-Domingo, PhD, MD (University of California, San Francisco, California); Susan J. Curry, PhD (University of Iowa College of Public Health, Iowa City, Iowa); Glenn Flores, MD (University of Texas Southwestern, Dallas, Texas); Adelita Gonzales Cantu, RN, PhD (University of Texas Health Science Center, San Antonio, Texas); David C. Grossman, MD, MPH (Group Health Cooperative, Seattle, Washington); George J. Isham, MD, MS (HealthPartners, Minneapolis, Minnesota); Rosanne M. Leipzig, MD, PhD (Mount Sinai School of Medicine, New York, New York); Joy Melnikow, MD, MPH (University of California Davis, Sacramento, California); Bernadette Melnyk, PhD, RN (Ohio State University College of Nursing, Columbus, Ohio); Wanda K. Nicholson, MD, MPH, MBA (University of North Carolina School of Medicine, Chapel Hill, North Carolina); Carolina Reyes, MD, MPH (Virginia Hospital Center, Arlington, Virginia); J. Sanford Schwartz, MD, MBA (University of Pennsylvania Medical School and the Wharton School, Philadelphia, Pennsylvania); and Timothy J. Wilt, MD, MPH (University of Minnesota Department of Medicine and Minneapolis Veteran Affairs Medical Center, Minneapolis, Minnesota).またNed Calonge, MD, MPHは、以前のTask Forceのメンバーであり、この勧告について重要な貢献を行っている。
* 現在のTask Forceのメンバーについては次のページにアクセスすること。
http://www.uspreventiveservicestaskforce.org/about.htm
表1 : グレードの意味および実践の提案
グレード | 定義 | 実践の提案 |
A | USPSTFではサービスを勧告している。高い確実性で十分な純利益がある。 | このサービスを提供する。 |
B | USPSTFではサービスを勧告している。高い確実性で適度な純利益があるか、適度な確実性で適度または十分な純利益がある。 | このサービスを提供する。 |
C | 注:下の説明は改訂中である 臨床医は個々の状況により、一定の患者に対してサービスを提供してもよい。しかしながら、症状や徴候のないほとんどの患者に対してはこの医療行為による利益はわずかしかない。 | 他の検討で個別の患者にサービスを提供することが支持された場合にのみ、このサービスを提供する。 |
D | USPSTF勧告ではサービス提供に反対している。適度または高い確実性でこの医療行為には純利益がないか、害が利益より大きい。 | この医療行為の使用に反対である。 |
I声明 | USPSTFでは、サービスの利益と害のバランスを評価するには現在の証拠は不十分であると結論づけている。証拠が不足しているか、低品質であるか、矛盾しており、利益と不利益のバランスを判断できない。 | USPSTF勧告声明の「臨床的検討事項」を参照。サービスを提供する場合は、患者が利益と害のバランスに関する不確実性について理解しているべきである。 |
表2 : 純利益に関する確実性のレベル
確実性レベル | 説明 |
高 | 公表されている証拠に、通常、代表的プライマリケア人口でしっかりと設計されしっかりと実施された調査から得られた首尾一貫した結果がある。これらの調査では、健康上の結果に対する予防サービスの効果が評価されている。このため、この結論は、将来の調査結果により強く影響される可能性は少ない。 |
中 | 公表されている証拠は、健康上の結果に対する予防的サービスへの効果を判断するために十分であるが、推計の信頼度は次のような要因によって束縛される。 • 個々の調査の回数、規模、または品質• 個々の調査間で所見が首尾一貫していない• ルーチンのプライマリケア実践への所見の一般化が制限されている• 一連の証拠間で統一性が欠如しているさらに多くの情報が公表されることで、観察された効果の強度または方向性が変化し、この変化が結論を変更するに十分に大きなものになる可能性がある。 |
低 | 公表された証拠は、健康上の結果への効果を評価するには不十分である。証拠は、次の理由のために不十分である。 • 調査の回数または規模が足りない• 調査の設計または手法に重大な瑕疵がある• 個々の調査間で所見が首尾一貫していない• 一連の証拠の間にギャップがある• ルーチンのプライマリケア実践へ所見の一般化ができない• 重要な健康上の結果に関する情報が欠如している追加情報で、健康上の結果に関する効果の評価が可能になるかもしれない。 |
U.S. Preventive Services Task Forceでは、確実性を「予防サービスの純利益に関するUSPSTFの評価が正しい可能性」であると定義している。純利益は、一般的なプライマリケア人口で実施される予防サービスの利益から害を引いたものとして定義される。USPSTFでは、予防サービスの純利益を評価するために公表されている全体的な証拠の性質に基づいて確実性レベルを割り当てている。
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2011年10月現在
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インターネット上の引用:
U.S. Preventive Services Task Force. Screening for Prostate Cancer: Draft Recommendation Statement. http://www.uspreventiveservicestaskforce.org/draftrec3.htm
原文掲載日
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